鉱山跡が残る西海岸のポルト・フラーヴィアへ
カリアリ滞在3日目は、西海岸に面した知る人ぞ知る、知らない人はまったく知らない観光スポット、ポルト・フラーヴィアへ。
そこで催されている1時間ほどの廃鉱山めぐりツアーに参加するためである。
ツアーは10時から1時間おきに催されていて、10時の回を日本から2週間ほど前にネットで予約した。11時の回はすでに30名の定員が満員だった。
まずは、イタリア鉄道でイグレジアスという町に向かう。カリアリ駅構内には、29年前と同じように蒸気機関車が保存・展示されていた。
テンダー付きの744型3号機で、軸配置は1D(つまり動輪の数が片側4つ)日本でいえば9600と同じコンソリデーションだ。
でも、レール幅が標準軌なので、車体はとても大きく感じられる。
日曜日の朝だけあってコンコースはがらんとしていたが、そこには昔のサルデーニャの田舎の家を模した興味深い展示があった。
「Pani, casu e binu a rasu」というのはサルデーニャ語で、「パン、チーズ、グラス(山盛り1杯)のワイン(があればいい)」という意味で、島の酔っぱらいのよくあるせりふである……と、上のほうに標準イタリア語で説明がある。
行き止まりのホームの端には、カルボニア行きのディーゼルカーが停まっていた。
サルデーニャ島の南西には、カルボニアとイグレジアスという2つの大きな都市があって、どちらにもイタリア鉄道線が通じている。
日中はカリアリから直通列車が交互に1時間おきに運転されていて、分岐駅のヴィッラマッサルジャ-ドムスノヴァスでは別方向の列車が待っていてくれている。
終点イグレジアスから目的地ポルト・フラーヴィアへは20kmほどの道のりだ。
ポルト・フラーヴィアの入口にあたるマズーアの町までは路線バスがあるのだが、本数が少なくて午前10時開始のツアーには間に合わない。
がらんとした駅前のタクシー乗り場で5分ほど待っていると、タクシーがやってきて人を降ろした。
「ポルト・フラーヴィア? いいよ、でも予約の人がいるから、その人を先に運んでから戻ってくるよ。15分くらいかかるけど待っていてくれる?」
50歳くらいの運転手はそう言って去っていった。
しばらくして戻ってきたタクシーの助手席には、女性が座っていた。
「同じ方向だから、親戚の人を途中まで乗せていくね」
こんなところがいかにも田舎町らしい。あとで知ったのだが、この日稼働していたのはこのタクシー1台だけだったようだ。
町から出ると、沿道には廃鉱の跡があちこらに見えた。
「イグレジアスは鉱山で栄えたんだ。今でも町には鉱山博物館があるから、帰りに見ていくといいよ」
いろいろと会話を交わしながら、やってきたのがポルト・フラーヴィアの駐車場だった。時刻は9時半だったので余裕で間に合うはずである。
「タクシーはここまでしか入れないんだ。鉱山ツアーには海岸沿いにまっすぐいけばいいよ」
はあ、そうですか。と降りたのだが、崖沿いの道が入り組んでいて、どの道を行くとどこに通じるのかもわからない。
さんざん迷いに迷った末、ようやく狭い1本道のカーブのはるかかなたに入口の建物を見つけたのだが、そのときすでに9時50分!
集合時間とされる15分前を過ぎており、目的地まではまだ10分ほどかかりそうである。
「こりゃ、もうダメだ! 12時の回に空きがあることを祈るしかない」
あきらめかけた直後、後ろから1台の自家用車が私たちに迫ってきた。
恥をしのんで大きく手を振ると、10mほど行き過ぎたところで車が止まった。
「ありがとう! この先で鉱山ツアーが10時からはじまるんです」
私がいうと、車を運転していた30歳くらいの女性はこういった。
「わかってるわ、私がそのツアーガイドだから」
「……」
運がよかった。
それにしても、15分前に集合のはずのツアーのガイドが、10分前にこんなところにいるとは……。
そわそわしている私たちを見て、「大丈夫、私が行かないとツアーははじまらないから」
そりゃそうだ。
集合場所に着くと、彼女は係の人に遅刻を冷やかされているし、私たちはといえば、同じツアーの参加者からは「おお、間に合ったか」と笑われる。どうやら、車で私たちを追い抜いていった人たちらしい。それならば、必死の形相で急ぐわれわれを乗せてくれてもよかったのに……。
まあ、ともかくも、ツアーは10時5分にはじまった。
総員20名のほとんどはイタリア人。外国人はスペイン人2人と私たち日本人2人だけだった。
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