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2018-12-09

隠れ家ファドハウスで37年の願いがかなう

リスボン滞在2日目の夜に目指したのは、前日に町の食堂で教えてもらったファドハウス。
アルファマの中心部にある宿からは、歩いて5分ほどのところにある。

昼間のうちに場所を確かめておいたが、注意していなくては見過ごしてしまいそうな場所だった。
狭いとはいえ表通りには面しているが、昼にはシャッターを下ろしていたためか、2度ほど店の前を行ったり来たりしてようやく見つけることができた。

アルファマの夜

それにしても、営業日が木曜~日曜日というだけで興味をそそる。
前夜にレストランで教えてくれた人も、「ああ、あの店は休みか……。いや、明日行くなら木曜日だからやってるぞ!」とうれしそうであった。

ライブは夜9時からはじまるというので、宿でひと休みしてから、しばらくはアルファマの町をうろうろ。
立ち飲みのバーがあったので、リスボン名物というサクランボのリキュール「ジンジャ」を注文した。

立ち飲みのバー

スーパーに行けば瓶で売っているのだが、こんな店で1杯引っかけるのがいい。
これで1ユーロだった。

ジンジャはどこでも飲めるようで、道端でおばさんが瓶とグラス1つで商売しているのも、昔のアルファマを思い出させてくれる。

ジンジャ

9時を少しまわったころにたどりついたその店「Tasca do Chico Alfama」では、すでにライブがはじまっているようで、店主らしい太った親父さんに、1曲目が終わるまで外で待つようにいわれた。

「レストランでジョゼ・バティスタさんに紹介されたんですよ」と一応言ってみると、「ああ、おじさんだよ」と店主はにこりともせずに答えてくれた。
(ちなみに、Jose Batistaで検索したら、YouTubeに動画が1本アップされており、まさにあの人であった)

ファドハウスの店内

店内は6人がけのテーブルが8つほどあっただろうか。
幸い、歌手に一番近いテーブルの片方に空きがあり、そこに案内された。

とくに舞台があるわけでもなく、狭い店の中央に、ギターの伴奏3人を従えて歌手が歌っている。
1回のステージは20分くらいと短かったが、夜中1時のラストまで、休憩をはさんで7、8ステージを楽しんだ。

最初のステージで歌っていたのは20代後半に見える若い女性だった。
なかなか迫力があって、これぞファドという感じ。
でも、最初のステージに出てくるのだから、前座かと思っていた。

ファドハウス
買ったCD

その次のステージに登場したのは、上の写真の太っちょのおじさん。
どこにでもいそうな風貌のおじさんが歌っているのも、なかなかいい感じ。
特別に上手というわけではないが、雰囲気があって十分によく聞かせる。

隠れ家ファドハウスとはいえ、やはり客の大半は観光客のようである。私たち以外は欧米系であった。
伴奏がはじまってもしゃべっていて、「シー」と繰り返し叱られている。
もちろん、私は37年にわたる念願がかなうひとときである。食い入るように集中して、見て聴いていたのは言うまでもない。

このおじさんのステージが終わると、CDを売りにまわるのだが、どの客も買おうとしないので寂しそうである。
結局、15ユーロ也をはたいて買ったのは私たちだけだった。サインもしてもらった。
ジャケットの写真が今よりずっと若い。「ジョアン・カルロス」というよくありそうな名前のこのおじさんは、YouTubeにも動画が出ていた。

家に帰ってCDを聴いたが、陰影に欠けていて今一つという感じ。
ライブで聴いたほうがずっとよかった。

伴奏のポルトガルギターとギター

ファドというと、あまりにもアマリア・ロドリゲスが世界的に有名になっているが、彼女のファドはちょっと暗い。
確かに素晴らしいのだが、何曲も聴いていると正直なところ、ちょっと飽きるのである。

ほかにもいい歌手が数多くいて、いい曲もあるのに……と思っていたところ、この店で聴いたファドはまさに望んでいたものにぴったりであった。
しっとりとした情緒や哀感をたたえる歌が多いのはもちろんだが、ときに明るく躍りたくなるような曲も交じって、心から楽しむことができた。

そして、なんといってもファドといえば、伴奏のポルトガルギターを抜きにして語るわけにはいかない。上の写真の左2つがそれである。
ファドの伴奏は、ベースを受け持つギターのほかに、メロディを奏でる2台のポルトガルギターが付くのだが、これがほんとうに哀愁漂う音を出してくれるのだ。

ファドハウス

最終ステージで歌ったのは、当初前座ではないかと失礼ながら誤解したこの女性。
3回登場したのだが、やはり回が進むにつれて乗ってきた。オーソドックスなファドが素敵だった。
写真の右側で耳をそばだてているのは、その前の回で歌った男性歌手である。この人は2曲しか歌わなかったが、声も表現力も素晴らしく圧倒的にうまかった。

そして、夜1時にお開き。最初から最後まで粘ったのは、我々だけだったかもしれない。
さぞかし熱心な東洋人だと思われたことだろう。
幸福感にひたりつつ、石だたみの道につまずきながら宿に戻る私であった。

もう2カ月以上たったいまも、ポルトガルギターの哀愁ただよう音色と、歌手たちの情感あふれる歌声が頭から離れない。次は、リスボンに1週間くらい滞在して、さまざまな店をめぐってみたい。

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