趣深いシチリア南岸のバスの車窓
旅から帰ってきて印象に残っている光景というのは、目をこらしながらじっくり歩いた町の様子や、町のバールやレストランで出会った人びととの交流はもちろんなのだが、一つの町から次の町までの移動の間に、車窓から見えた名前も知らない町の風景だったりする。
とはいえ、バスの窓から見えるのは一瞬だから、旅から帰って時間が経つと、だんだんと記憶が薄れていくのが普通である。
だが、それがなんとなく惜しいと思い、最近ではバスの先頭に陣取って、印象的な町の風景を撮るようになったのだ。
今回は、そんな写真のいくつかを紹介したい。
2014年9月19日は、アグリジェントからモディカ(Modica)まで、100km以上の移動となった。
まずは、アグリジェント11時発、SAL社のバスでリカータ(Licata)へ。
その途中にあったのが、パルマ・ディ・モンテキアーロ(Palma di Montechiaro)という丘上の町。
上から順に3枚の写真がそれである。
ちなみに、生ハムやチーズで有名なエミリア・ロマーニャ州のパルマとは関係がない。あちらの綴りは、Parmaだが、こちらは「手のひら」と同じPalmaである。
国道を左折するとまもなく、バスは急坂を登る。そして、とても大型バスが通るとは思えないような狭い道を、右に左に曲がると、いきなり目の前に上の写真のようなシチリア・バロック洋式の見事な教会が現れた。
帰国してから調べてみると、聖母教会(キエーザ・マードレ)とのことで、現在は手前の部分が工事中だが、本来は教会前に階段があって、それはそれは素敵な空間のようだ。
そして、再び狭い道を左右に曲がった末にバスが停車したのが、この小さな広場。
これもあとから調べたのだが、この町の人口は約2万4000人というから、結構な規模である。
でも、本当に狭い道ばかり。そして、中心のバス停が、この味わい深い小さな広場というのが興味深かった。次回は、ぜひ途中下車して再訪したい町である。
アグリジェントから1時間、ちょうど12時に到着したのがリカータの町。こちらは、街道が町を貫いているので交通量の多い広い道もあり、もちろんバスターミナルもある。
とくに観光地があるわけではないが、港もあってそこそこ町は賑わっている。
こんな町にマフィアが多いんじゃないかな、とふと思った。もっとも、それはあくまでも私の想像なので、軽々に信用しないように。
さて、ここから鉄道に乗れば、ジェーラ(Gela)乗り換えで、今日の目的地のモディカ(Modica)まで行けるはずなのだが、駅に行ってみるとやはり列車はバス代行になっていた。
必死になって貼り紙を解読すると、代行バスの停車場は駅近くの表通りにあるというのだが、はたしていったいどこにあるのか。
あっちのバールで聞き、さっきのバスターミナルに戻って聞いたのだが、どうも要領を得ない。
もっとも、代行バスじゃなくて、通常の路線バスもジェーラ行きがあるので問題はないのだが、この代行バスに乗れば、ジェーラで確実にモディカ行きに接続できるのだ。
路線バスのジェーラ行きは、ジェーラでの接続時間が15分しかないので、イタリアでは非常に不安なのである。
どうやら、駅にたたずんでいた南インド系と思われる青年も、この代行バスに乗るらしいことを突き止めて、奇跡的に代行バスを見つけることができた。
それは、言われなくては絶対に気づかないミニバス……というよりもワゴン車であった。確かに、小さく代行バスの貼り紙がしてあったが……。
ミニバスの乗客は、結局われわれ2人とそのお兄さんの3人。そこに、運転手1人と車掌役1人がいて、総勢5人。狭い車内に大きな荷物を持ち込んで身動きがとれなかったので、残念ながら写真を撮る余裕がなかった。
でも、茫漠とした野原を、イタリア人の運転手と車掌、南インド系の青年、日本人夫婦を乗せたミニバスが疾走していく様子は、今も瞼の裏にしっかりと残っている。
さて、ジェーラに着いたら一安心。ここからは、7年前にバスでモディカまで乗ったことがある。
前回は工事のために代行バスになってしまったが、今は列車が走っているので、今回こそはラグーザ~モディカの雄大な車窓が眺められるぞ……と期待していた。
ところがである。何の因果か、私たちの乗る14時24分発の列車は、またもや代行バスになってしまった。
なぜか、また工事のためらしい。どうやら、列車に確実に乗るには、朝夕の通勤通学の時間に来るのが正解のようだ。
ちなみに、乗換時間がないために避けたリカータ発の路線バスだが、きちんと時刻通りにジェーラに着いたようで驚いた。
まあ、いいか。ミニバスでおもしろい体験ができたし、ジェーラ駅の構内のバールでゆったりとワインを飲むことができたから。
というわけで、残念ながらまたバスなのだが、まあこれはこれでおもしろい。
代行バスの運転手は、国道で一直線にラグーザやモディカに行く道は知っていても、いちいち途中駅の駅前に立ち寄るルートは不案内らしい。
国鉄(イタリア鉄道)の社員らしきおじさんがそばについて、「次の道を左」だとか「駅に客が待っているかもしれないから、クラクションを鳴らしてみて」とアドバイスしている。
どこかの町だったか、とうとうそのおじさんも道に迷ってしまったようで、旧市街の狭い道で立ち往生。近くにいた車の運転手や地元の人に道を聞いていた。急がない旅なので、こんなのを見ているのもおもしろい。
ジェーラ出発時には20人近くいた乗客も、一人降り、二人降りして、コミゾを過ぎるともう私たち2人だけ。
ラグーザからモディカに向かう雄大な景色を、のんびりと眺めることができた。
終点のモディカ駅は町外れ。田舎の路線バスならば、たいていどこでも途中で降ろしてくれるのだが、国鉄代行バスはそうはいかない。その日に泊まる宿の前をすーっと通りすぎて、坂下に位置する駅に16時20分すぎに到着した。
最後の写真は、モディカ駅前でバスの運転手をパチリ。お疲れさまでした。
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そうですね。とくに南部のローカル線の廃止・休止が進んでいるようです。幹線でも小さな駅の廃止が進んでいるのは、JR北海道のような感じです。
バス停の場所探しは、いつも最大の問題ですね。
とくにカラブリア州の多くではバス停の表記すらなく、町の人に聞いてもほとんど知らなかったりして往生したことがよくありました。
投稿: 駄菓子 | 2015-09-08 13:05
ここ数年、イタリアで代行バスのお世話になる機会がありました。FSではローカル線の廃止が急速に進んでいるように感じます。
代行バスに限らず、バス停の場所探しにはよく苦労しています。その点、鉄道は駅というものがあるので安心感が違うように思います。
投稿: nebbiolo | 2015-09-07 17:54