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2014年11月の4件の記事

2014-11-22

フォトジェニックなバールの城砦

アオスタには9月11日から2泊。2日目は目いっぱい使えるので、まずはかねてから行きたかったバールの城砦(Forte di Bard/Fort de Bard)に。
Bardだからバルドと発音するのかと思っていたら、もう完璧にフランス語でバールと呼んでいた。
バールはトリノに向かう街道沿いにある。アオスタのバスターミナルから30分おきに出ているポン・サンマルタン(Pont Saint Martin)行きのバスで1時間10分ほど。

「ほら、あれだよ」
目の前に現れた見事な城砦を指さして、運転手はバスを停めた。

バールの城砦

この城砦を知ったのは、1990年代にイタリアで買った「Bell'Italia」という旅雑誌であった。
この雑誌は、毎号イタリア各地の知られざる町や観光スポットをいくつか取り上げてくれるので、イタリアに行くたびに買っていた。
もっとも、最近はさすがにネタ切れのようで、今回はぱらぱらとめくってみて、あまり興味を引くスポットがなかったので、初めて買わずに帰ってしまった。

バールの城砦

雑誌の特集を見る限り、かなりの高低差があるようで、頂上まで登るのはかなりの覚悟が必要だと思っていた。
ところが、である。
現地に行ってみると、なんと斜行エレベーター(簡単なケーブルカーのようなもの)ができているではないか!
入口にある案内所のおじさんによると、これを4本乗り継いでいくと頂上までいけるという。
心のなかでは登山を覚悟していたので、ちょっと拍子抜けである。

バールの村

これが、斜行エレベーターから見たバールの村。
中世からあった集落とのことで、狭い道の両側に古めかしい建物が建っていた。
ちなみに、エレベーターは無料。頂上まで行って帰ってくるだけならば、一銭も、いや1ユーロもかからないのである。

城砦の上からの眺め

これが城砦の上からの眺め。なかなかのものである。
左側に高速道路が見えるが、私たちの乗ったバスは、右の川沿いをくねくねとやってきた。
川の左側には鉄道の線路が見える。これが、トリノとアオスタを結ぶ路線である。
そして、黄色く見える建物が駅。
じゃあ、なんで列車で来なかったのかというと、その理由はのちほど。

駅名はバール・オーヌ(Bard-hone)。川の右側(この写真では見えないが)がバール、左側(この写真に写っている地域)がオーヌの町である。

城砦の中

この城砦であるが、もともとはこの小山の頂上に古くからあったものである。
ほかの地域の城砦と同様に、山の上にぽつんと建っていたらしい。
そこへの通路を整備して、通路に屋根を付け、さらに何百という部屋をつくったという。
サヴォイア王国の時代である。
1800年、この城がナポレオン軍の進軍を止めた……とかなんとか、そしてイタリア統一に力を尽くしたカブールも一時はここに幽閉(?)されていた……とかなんとか、金を払って見学した博物館にはそう書いてあった。

そして、19世紀にさらに手を加えて今のような形になったそうで、だから内側を見ると意外に近代的なのであった。

バールからオーヌへ

さて、城砦から下界に降りて、橋を渡ってオーヌの町をぶらぶら……と思ったところで難題が発生した。
実は、うまい具合にアオスタに戻る列車がやってくる時刻だったのである。
この区間は普通列車のみが1日に20往復ほどしているのだが、この駅に停まるのは、そのうちの半分以下。
その列車が、20分後と1時間後にやってくる。その次に停まるのは、3時間ほど先。

だが、1時間以内でオーヌの中心部まで行って戻ってくるのは少し厳しい。
列車に乗り遅れても、バスで帰ればいいのだが、またあのくねくね道を1時間以上かけるのはつらい。
ということで、軟弱にもそのまま鉄道駅に直行して、20分後の列車に乗ることにした。

ところが、駅に行ってまたびっくり。無人駅なのは当然だろうが、切符の自販機もなく、駅前には切符を売っていそうなバールすら1軒もない。
やむなく、やってきた列車に無券で乗ることにした。
でも、その前に城砦をバックに撮影。

バールの城砦をバックに

列車は、城砦の真下をトンネルでくぐってやってくる。
「そうだったか」と私はしみじみ納得。
というのも、2年前にここを列車で通りかかったとき、城砦が見えるはずだと、懸命になって左右の車窓を眺めていたのである。
そのときは「おかしいなあ。なぜ見えないんだろう」と思っていたのだが、真上にあったんじゃあ、見えないはずである。

さて、問題の切符だが、乗車してすぐに車掌に言ったら、罰金なしで切符を切ってくれた。
どうやら、ほかの無人駅で乗った人もそうしているようで、ここではそれが当たり前のようである。
45分ほどでアオスタに帰り着いた。

2014-11-13

アオスタで見た不思議なものいろいろ

アオスタ市内の歴史的な観光地というと、ローマ遺跡やアウグストゥス門が有名だが、サントルソ(聖オルソ)教会とその修道院は必見である。
とくに修道院は、建物や回廊のデザインが特徴あって目を引く。

サントルソ修道院の正面

狭い路地の奥にあって、知らないでいると見逃してしまいそうな場所にある。
そんなひそやかな場所に、こんな手の込んだ建物が建っているのだ。
そして、下のほうはこんな感じ。

サントルソ修道院の正面

専門的にはなんというのは知らないが、アーチの下のもたっとした大根足のような装飾がかわいい。
ガイドブックでは12世紀に建てられたのだそうだ。

そして、修道院の回廊に入ってみたかったのだが、今回は時間が合わずに残念。
2年前に訪れたときの写真を貼っておこう。

サントルソ修道院の回廊

回廊は15世紀のものらしい。
こうした修道院の回廊は、イタリアのどこに行っても見られるが、ここのものは、おそらく天井が低くてアーチの間隔が狭いためか、薄暗いのが古さを感じさせる。

そして柱にあったこの彫刻が素晴らしい。

サントルソ修道院の回廊

土俗感あふれる表情と肢体がいきいきとしていて最高! アフリカの遺跡から発掘されたと言われたら信じてしまいそうだ。
思わず、「キリスト教伝来前の文化が色濃く残っていて……うんぬん」とウンチクを語りたくなる。

さて、固い話になったので、ここで気分転換。
アオスタ駅構内のバールで飲んだモレッティのレモンビールである。

モレッティのレモンビール

「レモンビールはほかのメーカーからも出ているけれど、モレッティのほうがうまいよ」と、カウンターの隣にいたおじさんが説明してくれた。
イタリアでは、こういうお節介な親爺さんがいるから楽しい。そういえば、アルバの白トリュフのときもそうだったっけ。
レモンビールのウンチクも東京で披露することができました。

それにしても、今回は25日もイタリアにいながら、結局モレッティのレモンビールを見たのはこのときだけ。
これを見つけた妻の目ざとさには感心せざるをえない。
そうそう、味は……さわやかで、微妙な甘みと苦みが交じっていて、非常にうまかった!

サンマルタン-サヨナラ バス停

最後の写真は、次の停留所に注目。
「Via St. Martin Sayonara」とある。
「サンマルタン通りサヨナラ」
車内放送を聞いていたら、突然日本語らしき単語が出てきて、びっくりして電光掲示板を見て、あわててカメラを取り出してかろうじて撮影に成功!

バスはサンマルタン通りをずっと走っていたので、「サンマルタン通り○○」という名前の停留所が続いていた。
そして、その途中に出てきたのがこれである。
「サヨナラ」はどうやら交差点の名前らしいのだが、何に由来しているのかまだわからない。
かつては、この近くに「ホテル・サヨナラ」というのがあったらしいことまではわかったが……。

ちなみに、「ホテル・サヨナラ」はイタリアのほかの町にも現存するようだ。
なかには、「ホテル・ニューサヨナラ」があって笑ってしまった。
日本に例えてみれば、「ペンション・チャオ」「お宿、アリベデルチ」というイメージかな。

2014-11-12

アオスタで肉三昧

トリノから列車で約2時間、フランス国境に近いヴァッレ・ダオスタ州の州都、アオスタに到着した。ここで2泊。
2年前にもアオスタには来たのだが、妻は初めてなので例によってツアコンである。

アオスタは標高が高いから涼しいんと思っていたら、30度近い暑さにびっくり。
タクシーの運転手によれば、「いやあ、涼しいときもあったけど、ここ2、3日は暑くて」ということだった。

ホテルからの眺め

予約したホテルはアオスタ駅から4kmほどのところにある「ホテル・パノラミーク」。
名前にたがわず眺めのいいホテルだった。上の写真はベランダからアオスタの市街地の方向を撮ったもの。

ホテルのフロントのおばさまは、私たちが公共交通機関でやってきたことにビックリした様子であった。
とはいえ、駅前にはタクシーが止まっているし、バスも30分おきに出ている。
もっとも、急斜面に建っているものだから、バス停からは急坂をひいこら言って登ってこなくてはならない。

シャノー広場

この日は昼過ぎまでトリノでうろうろしていたものだから、アオスタに着いたのは夕方近く。
もう無理はしないで、夕食まで市内をぶらつくことにした。

アオスタは、州都というよりも、州町あるいは州村といったほうが似合う小さな町である。
町の中央に、市庁舎のあるシャノー広場があり、そこから四方に道が伸びる。

サンタンセルモ通り

そのうちで、東にあるアウグスタ門に向かうポルタ・プレトリア通り、それに続くサンタンセルモ通りが目抜き通りといった感じで、飲食店や土産物屋が並んでいる。

そんな市の中心部からも、万年雪をかぶった山々が見渡せて、すがすがしい気分である。

シャノー広場

うれしい思い違いだったのは、トリノやアオスタの人たちの気質。もっとツンツンしているのかと思ったら、ずいぶん観光客にはやさしい。むしろ、何かと気が利いて、親切な人が多かったのは意外であった。

しかも、少なくとも私が歩き回った限りでは、夜でも町にあまり緊張感がない。
事実、どちらの町とも(とくにアオスタは)治安がよいということなので、肌で感じたイメージは間違いないのだろう。

1日目の晩飯は、中心部の路地裏にあるトラットリーア「La Trattoria degli Artisti Pam Pam」。
「芸術家パムパムのトラットリーア」といった意味か。
観光客も大勢いたが、地元料理が中心のまったく気どらない店である。

前菜をサラミとハムの盛り合わせにしたら、予想にたがわず山ほど出てきた。
下の写真はもちろん1皿が1人分である。
パスタはパスして、メインに牛肉のタッリャータを注文。まさに肉三昧である。

前菜盛り合わせ

帰りは10時近くになってしまったが、まだ駅前からホテル下まで市内バスがある時刻。

それを信じて、駅まで歩いてひと気のないバス停で待っていたのだが、いつまでたってもやって来ない。
終電は終わって駅に人はいないし、タクシー乗り場にタクシーはいないし、近くの店はすべて閉まっている。かといって、知らない夜道を1時間も歩けない。
市内バスの時刻表を信じた私を、妻が責める。
「これはマズい。どうするか?」
進退窮まったところで、タクシーが1台やってきた。まあ、なるようになるものである。

サンタンセルモ通りのワインバー

2日目の晩飯は、前日から妻が目をつけていたワインバー。
穴蔵風の店内が大変よろしかった。食べるものは、チーズとサラミ・ハムとパンしかないのだが、黙っていると次々に盛り合わせが出てくるというしくみ。
地ビールも飲み、ワインもおすすめの地元のものをたらふく飲んでご機嫌になったのであった。
そうそう、前日の失敗に懲りて、店の人にタクシーを呼んでもらったのは言うまでもない。

2014-11-05

トリノ・スペルガの登山電車

いつまでもトリノの話をしていると終わらないので、今回はトリノ最終回。
トリノ郊外にある登山電車に乗ったという話である。

郊外といっても都心から15番のバスで20分ほど。
バス停近くにあるサッシ駅と丘上に聖堂の建つスペルガとの間3.1km、標高差425mを18分で結ぶ登山電車である。
線路の中央に歯車があって、車両の歯車と噛ませて急勾配を上下する「ラックレール式」の鉄道だ。

サッシ駅にて

往復料金6ユーロを払って駅で待っていると、丘の上から電車が降りてきた。
これが、折り返して11時発となる。
見てわかるように相当の勾配だ。最大21%なのだという。

旧型電車の車内

発車時間が迫ってくると、各国の観光客が三々五々集まってきてかなりの賑わいになってきた。
電車は2両編成で、私たちはすかさず先頭車両の先頭の席へ。

路線の途中

住宅地の中から発車する観光鉄道なので、もっとお気楽な遊覧電車かと思っていたのだが、乗ってびっくり。かなりの本格派である。
うっそうとした林を抜けていくと、下界とは違ったひんやりとした風が吹いてきた。

途中駅は3つあるのだが、この日はすべて通過。周辺に民家も少ないので、ほとんど乗降客はいないのだろう。
上の写真は、ただ1か所、上下列車の交換(すれ違い)ができるラッドッピオ駅。
もっとも、平日は1時間おきに運転されるので、すれ違いはない。日曜日は30分おきなので、ここですれ違う必要があるのだろう。

スペルガ駅

スペルガ駅に着くと、ほとんどの人たちは駅から少し歩いたところにあるスペルガの教会に行くのだが、私たちを含むごく一部は、駅でうろうろしながら電車の写真撮影。
どこの国にもマニアはいるものである。

スペルガ駅

それでも、駅のはずれから走行シーンを写そうとしているのは、私たち二人だけであった。
まあ、カメラを持たずに、楽しそうに見送っていた人たちはいたけれど……。

次の発車は1時間後なので、一応その間にスペルガの教会を拝観。
おもしろかったのは、その内部にバールがあったこと。
カプチーノを頼んだら、こんな素敵なアートで出てきた。

スペルガ聖堂のバール

聖なる場所だというのに、きちんとアルコール類も備わっているのがいいところである。
午前中だというのに、もうビールを注文していたイタリア人のおじさんもいた。

あとは、発車の時刻まで教会の周囲をぶらぶら。
それにしても、よく丘の上にこんなデカい建物をつくったものだと感心する。一応写真を撮ったけれども、誰が撮っても同じになるので、ネットで探して見てください。

教会の建物よりも気に入ったのが、すがすがしい空気。周囲は自然公園になっているらしく、時間があればハイキングコースをたどって下に戻れるようだ。
そんななかでサッカーに興じる少年たち、写真をとるおばさんの集団、食事をとる家族連れなど、みなさまざまな時間の使い方をしていた。

サッシ駅

スペルガ駅12時30分発の帰りの便に乗車。
18分かけて降りてきた下界は、まだまだ夏の名残で蒸し暑かった。

ちなみに、この路線は火曜日は運休(代行バスが運転される)になるので、ご注意あれ。

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著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
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