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2012-08-21

「ピッツァとスープ」という不思議なモリーゼ料理

カンポバッソに到着した日の夕食は、さんざん町なかを徘徊したのちに、駅からほど近い1軒のピッツェリーア兼トラットリーアに決めた。
人通りがそれほど多くない道に面した入口は、まるで京都の町家のように狭く、しかも海の家のような野暮ったい造りなのだが、言いようによっては古びたよさがある。
店の入口近くには、ピッツアの釜が据えつけられ、時折見えるオレンジ色の炎が鮮やかだった。

そして何よりも、近所の人が入れ代わり立ち代わりピッツァを買い求めにやってくるのを見て、「この店はいけそうだ」と思ったわけだ。

カンポバッソのトラットリーア店内

前日まで、スルモーナで食い道楽を繰り返していたので、この日はピッツァとビールくらいにしようと思って店に入ったのだが、小太りで中年の店主に案内されて、店の奥に入ったところで気が変わった。

「この店は、かなりイケるかも」と私の食い物レーダーが反応したのである。
「コースで食ってみよう」と決心した。

カンポバッソのトラットリーア店内

店内は上の写真の通り。質素なたたずまい、壁に飾った白黒写真、酒瓶の置きかた、清潔な店内、そして何よりも、見えないように置かれていた消臭剤が気に入った。
消臭剤を見つけてしまったのは、たまたま私が端っこの席を選んだからであって、店主の落ち度ではない。

ちなみに、店の名前は「Da Nerone」(ダ・ネローネ)。つまり、ネローネの家という意味。
イタリア語で、あの悪名高いローマ皇帝ネロのことである。彼の名前にちなんでいることは、店内に似顔絵があったことから間違いない。
なぜそんな名前を付けたのか、聞き損なったのが残念である。

前菜

ここも、多くのイタリアのトラットリーアと同じく、家族で経営しているようだ。
息子であろうスマートで若い男性が注文をとりにやってきた。
前菜は、メニューの一番上に書いてあった、この店の名前の付いた盛り合わせ。
まあ、だいたい店名の付いた盛り合わせなら、間違いないというのが、これまでの体験である。

上の写真の通り、比較的どこでも見るようなものが並んでいたが、どれもウマい。料理したものは、一手間多くかけているような味わいが感じられた。

お皿を回収に来たのは、10代前半と見える娘さん。
調子に乗って、でも本心から「Ottimo! (オッティモ: 最高)」と言ったら、はにかんで「Ottimo!?」と繰り返した。

「ピッツァとスープ」?

不思議だったのは一皿目の料理(パスタ)である。
メニューの一番上に書かれているのは、「Pizza e Minestra」というもの。
「ピッツァとスープ? 何これ?」
「モリーゼの地方料理です。ピッツァとあるけどピッツァじゃない。ミネストラとあるけどスープじゃない……。野菜はお好きですか? だったらお勧めですよ」

何しろパスタの部の一番上に書いてある料理である。自慢料理に違いない。
こりゃあ話のネタに食っておくしかない……ということで出てきたのが、上の写真の料理である。

どうやら、ピッツァというのは、下に敷かれているパン生地のようなものを指すらしい。あとで原型を見せてもらったが、形は確かにピッツァである。いわば具のないピッツァ。いや、よく考えれば単なる丸いパンである。
帰国してから調べてみたら、トウモロコシを原料にしたものらしい。

それと、ほうれん草らしき野菜とがぐちゃぐちゃに交ぜてあって、肉や香辛料で味付けがしてある。
まあ、毎日食えと言われたら飽きそうだが、なかなかおもしろいメニューであった。
それにしても、なぜこんな名前を付けたのか……。

豚肉のグリル

そしてメインは豚肉のグリル。
ネロを名乗るくらいだから、火あぶりが自慢ではないかと思ったからである。
実際、値段も手頃だったし、量も手頃。味もよかった。

そんなこんなで、この日もたっぷり食ってしまった。
アルコールは、駆けつけの生ビールと赤ワイン500cc。
ほかに客もいないし、ピッツァのお土産も一段落したのだろう。親父さんがやってきて、しばし歓談。
イタリア20州の最後にモリーゼにやってきたと言うと、「まあ一杯やってくれ。モリーゼ名産のリキュールだ」と親父さん。

モリーゼのリキュール

リキュールの名前は聞いたけれど、忘れてしまった。
山岳都市が好きだと言ったら、
「モリーゼにはたくさんあるよ。フェッラッツァーノに行ったのか。あとは、この近くだとカルピノーネがいいね」
「そうそう、バスの車窓から見て、明日行こうと思っていたところ」
あとは何を話したのかよく覚えていない。
「もう一杯どう」という親父さんのことばに甘えて、リキュールの杯を重ねたことだけはよく覚えている。
これだけ飲んで食って27ユーロというのは驚きの安さであった。

日本に帰ってきて「Pizza e Minestra」を検索したが、日本語のサイトではまだ紹介されていないようだ。
さすがにイタリア語のサイトにはレシピが書かれていたが、モリーゼ州以外のイタリア人には知られていない料理らしく、「ピッツァでもなく、スープでもない」と断り書きがしてあった。

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コメント

入口が安っぽくても、中に入るとこうした部屋があるのだから、あなどれませんよね。まあ、たまにその逆のこともありますが。
それにしても、こんなパスタ(?)はイタリアで初めて見ました。
このPizzaの原型は、ikeさんが↓のブログで書いていた
http://ike.asablo.jp/blog/2012/06/14/6480001
「何も載っていないピザ」にそっくりでした。

私の胃袋では、この前菜だけで終わってしまいそうですが、店内の雰囲気がとてもいいですね。それと何より、お勘定が27ユーロってところが最高。くつろいだ気持ちで食事ができそうです。

Pizza e Minestra とは、見た目も名前も変わった料理ですね。まあ、これに名前をつけるとしたら、これしかないという感じもします。

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