元祖桃源郷: スカンノ
プログの更新も進まずに、旅の日程がどんどんと進む毎日であった。
なにしろ、日が長くて日没が9時ごろだから、夜遅くまでぶらぶら歩いてしまう。
その後に食事をすると、あとは寝るだけという日々の連続。
そろそろ旅も終わりに近づいているのだが、せめてアンヴェルサのあとに行ったスカンノ(Scanno)くらいは、イタリアで書いておこうと思う。
アンヴェルサから、山肌にへばりつくような狭い崖の道を30分、やってきたスカンノは、かつて桃源郷というのがふさわしい町だった。
マリオ・ジャコメッリ(マーリオとしてほしい)やアンリ・カルチエ=ブレッソン(最近はカルティエとよく書かれるが、やはりパリ方言のカルチエとしてほしい)の写真でも世界に知られた町(村)である。
どうも、そのイメージが強いようで、スカンノを訪れる人はすぐに詩人になってしまう傾向がある。
だが、最近はローマから直通バスも出ているくらいで、夏は保養地として、冬はスキーにと観光に力をいれている。
案の定、周辺にはホテルやコンドミニアムができていて、旧市街を一望するような写真を撮るのに苦労した。
旧市街の展望をじゃまするような建物は建ててほしくないなあ。
その後、帰りのバスまでの3時間、私はひと気のない旧市街を登ったり降りたり、階段路地で猫とたわむれたり、教会の前のベンチで居眠りをしたり。
夜6時近くになると、あんな静かだった路地に、信じられないほどの人があふれてきた。
なかには、黒づくめの伝統衣装に身を包んだおばさんもちらほら。
鷲鼻でしわしわのおばあさんが一人、その黒い衣装を着て、家の前に置かれた椅子に座り、はるかかなたを凝視している姿を見た。
確かに絵になったのだが、気の小さな私は、写真を撮らせてくれということができなかった。
この観光地で、彼女はもう何度も素人写真のモデルになったことだろう。
町の中心の広場にくると、ここにも黒い衣装のご婦人たちが何人かいらっしゃった。
眼鏡をかけてドラえもんのようにころころとした中高年のご婦人が、黒ずくめの伝統衣装に身を包み、おしゃべりに夢中な姿は、なんとなくリアリズムを感じて私には微笑ましかったのである。
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