森の名物は「いかめし」と「韃靼そば」
30年前にも森の駅で下車したのだが、そのときの記憶はほとんどない。覚えているのは、わずかな乗り換え時間を利用して、駅前で名物の「いかめし」を買ったことだけである。
確か、がらんとした駅前に、いかめしを売る店だけがぽつんとあったような気がしたが、時が流れて駅前はそれなりにこぎれいにはなっていたものの、雨だったせいか、やはり人の気配がない。
そして、おそらく昔のままに、いかめしを売る柴田商店がそこにあった。上の写真の右端の店である。
店内に入ると、上品な駄菓子屋といった風情。もっとも、ところ狭しと並んでいるのは、いかめし、いかめし、いかめしの箱。いかめしが1折に2つ入っていて500円である。
この小さな店で売っているそれが、全国の駅弁大会で優勝の常連というのだからおもしろい。
ただ、駅弁といっても30年前に来たときからホーム売りはしておらず、この店に来て買うしかなかったのであった。

町の中を散歩しようと思うのだが、風雨が強くなる一方で、どうにもならない。結局、駅の周辺を10分ほどかけて一周して終わりにしてしまった。
目を引いたのは、明治天皇が上陸した桟橋跡というもので、海の中に塔のような碑が立っている。当時は、函館本線が開通する前のこと、札幌方面に向かう人は、函館から森を経由して室蘭に行く船を利用したのだそうだ。
「さて、腹が減ってきたぞ」
腹時計がなるのだが、食事のとれそうな店がない。
ようやく、一軒のそば屋を見つけたのだが、「わざわざ北海道まで来て、そば屋っていうのもないか。函館まで我慢して、海鮮丼でも食べるかな」と駅まで引き返した私であった。

駅に戻ったが、函館行きの発車までは1時間近く。そこで何気なく、町の案内を見ていると、この近くの農場で韃靼(だったん)そばの実を無農薬で栽培しているというではないか。
そういえば、さきほどのそば屋の入口に、チンギスハンの似顔絵とともに「韃靼そばあります」と書かれた幟が立っていたっけ。
「なるほど、そういうことダッタンだ」
誰も聞いてくれないシャレに一人悦に入りながら、再び傘を差してそば屋に向かったのである。
それぞれのメニューに、普通のそばと韃靼そばを使ったものがあったので、私はそば粉の種類は迷わず韃靼そば、そしてネタはちょっと迷ってにしんそばにした。
「京都でもないのに、にしんそば?」と一瞬思ったが、よく考えたらニシンは北海道が本家本元ではないか。

韃靼そばはなかなかに力強い印象でコクがあり、いかにも「そばを食した」という気分になった。
こうして、函館~森の小旅行は終わり、再び普通列車で函館に戻ったのであった。.
最近のコメント