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2009-07-24

巨匠の故郷そして恐怖のコインロッカー: リーミニ

 アスコリ・ピチェーノに行く前日にはラヴェンナに宿泊したのだが、その移動の途中でリーミニ(Rimini)に立ち寄った。
 ……と書くといかにも計画的に聞こえるが、ラヴェンナからリーミニに向かうローカル線の列車が遅れたために、接続するはずの本線の急行(InterCity)に間にあわず、リーミニで1時間半ほどもてあましたのである。

マラテスティアーノ教会

 リーミニの駅の端には珍しくコインロッカーなるものがあった。液晶表示の説明には伊英独仏のほかに、なんと日本語もあって(アラビア語もあったかもしれない)、使い方はすぐにわかった。
 料金は5ユーロと、1時間半だけ預けるにはかなり高いのだが、背に腹はかえられない。しかも、荷物の受け取りは、レシートに記されたバーコードを読み取り口に当てるというものだ。

 さすがの私も数秒間逡巡した。
「うーん、イタリアでこういう機械を信用してよいものだろうか」
 荷物を受け取る段になって、突然故障することもありうる。そうなったら、アスコリ・ピチェーノに着くのはいつになることやら。
 それでも、運を天にまかせてコインロッカーに5ユーロを投入してドアを閉めた私である。

 町の中心部は昼の少し前とあって、人びとで賑わっていた。ここは海岸の保養地でもあるので、観光客もずいぶんいるのだろう。

「3人の殉教者」広場

 駅から400メートルほどのところにあるのが、この町のシンボルであるマラテスティアーノ教会(Tempio di Malatestiano)。トップの写真にあるように、不思議な正面をしている。これは、再建や修復を重ねたからのようだ。
 もともとは、13世紀に建てられた聖フランチェスコの教会で、15世紀になって万能人レオン・バッティスタ・アルベルティを監督にして修復がなされたという。

 ちなみに、このアルベルティは、中学時代の私の憧れの人物であった。会ったことはないけどね。社会科の資料集にあった解説を読んで、「こんな人になりたい!」と思ったわけである。
 ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチとなると、さすがに敷居が高いような気がしたけれど、アルベルティなら許されるかな……というわけだ。

 さらに進むと、この町の中心部である、トレ・マルティリ(Tre Martiri)広場に出る。日本語に訳すと、「3人の殉教者広場」というところか。2番目の写真がそれである。
 長円形の広場というよりも、この部分だけ道幅がやけに広くなっているという感じ。
 ローマ時代からフォロ(公共広場)だったんだそうで、かのカエサル(シーザー)がルビコン川を渡った後に、ここで兵士たちに訓示を垂れたというのだから歴史的な場所である。

カヴール広場

 ちなみに、「賽は投げられた」とカエサルが叫んでルビコン川を渡ったのは、ここから西北西へ約20キロのところにあるサヴィニャーノ・スル・ルビコーネ(Savignano sul Rubicone)という町なんだそうだ。ルビコーネというのは、イタリア語でルビコンのことである。

 広場を右折して、買い物の人だかりをかきわけながら進むと、100メートルあまりでカヴール(Cavour)広場。それほど広くない広場だが、周囲には風格のある建物が並んでいる。
 そこでぼんやりしていたら、赤旗を掲げながらのデモ行進に出くわした。翌週にもトリーノで似たようなデモがあったので、そんな季節だったのだろうか。

 広場の中央に据えられたパオロ5世の銅像も、どこかデモを応援しているかのような力の入った姿であった(3枚目の写真)

 ここでそろそろ時間切れ。駅に戻らないと次の列車にも乗り遅れてしまう。
 と、そこで思い出した。
 リーミニは巨匠フェデリーコ・フェッリーニ監督の故郷なのであった。私の大好きな『アマルコルド』は、この町を舞台にしたものである。だが、さすがにどこを見ても、それを偲ぶよすがはない。尻の大きな姉さんもいなければ、いたずら坊主たちも見えなかった。
「いくらなんでも時代が違うからなあ」
(あとでガイドブックを見たら、フェッリーニ博物館はあったが、そのときは見過ごしていた)

 きょろきょろしながら、「何か巨匠にちなんだものはもいものかと」と駅に向かって歩いてくると、駅前に……あった。

カフェテリーア「オット・エ・メッゾ」

 カフェテリーア「オット・エ・メッゾ」(8 1/2)である。喜んで写真に撮った。
 そして、駅の端まで行って、緊張の一瞬。コインロッカーのレシートを読み取り口に当てると……。
 
 「このレシートは使用期限が過ぎています」

 ガーン!
 ここまで絵に描いたようにいくと、さして驚きもしない。
 それでも一瞬、目の前が真っ暗になったが、気を取り直してもう一度。

 ガチャンと音がして、ロッカーのドアのロックが外れた。思わず、ふーっとため息がもれた。

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イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

コメント

アマレットさんも、リーミニを通過したんですね。
ラヴェンナからやってくるローカル線の列車は海沿いを走るので、大衆的でざわざわした雰囲気の町に、車窓からも少しは触れることができました。

「アマルコルド」で、木の上に登って「オンナがほしい!」と叫ぶ場面は、私も強烈に印象に残っています (^^;;
あとは、うろ覚えなんですが、「いよいよ今晩だ!」と町の人びとが、昼間っから、そわそわうきうきしている場面。
夜になって小舟に分乗して何をしにいくのかと思ったら、沿岸を豪華客船(クイーン・エリザベス?)が通過していって、みんながうれしそうに手を振るという場面もおかしかった。

がっちゃんさん

まあ、ロッカーのなかにあることは確か(たぶん)なので、「たとえダメでも、そのうちなんとかなるだろう」とは思っていましたが。
そうなったら、たぶん、いろんなイタリア人がやってきて、ああでもない、こうでもないと騒動になって、それはそれでブログのネタになったでしょうね。

でも、せっかくの旅の時間なんだから、そんなことに費やしたくはないというのが正直なところですが。

リーミニにも行かれたんですね。我々もアスコリの前に寄って、海岸沿いの店でランチしました。クルマだったので、駅もコインロッカーも見てませんが(笑)。ちょうど夏ド真ん中で、海岸沿いはなんか猥雑な雰囲気というか、どっちかというとお下品な、もとい大衆的なビーチでした。海の家にエロいお姉さんのイラストボードが出てたりして、リドとかとまた違う趣があります。
「アマルコルド」大好きな映画なので、あちこちビデオ撮影して帰り、あとで映画と見比べるという長年の夢をかなえた結果、街のシーンはセット撮影か、ほかの街でロケされたものではないかと。だってイタリアで、地震もないのにたった40年で広場に面した建物がこんなに変わることはないでしょ。グランドホテルはほぼセットだというのは知ってましたが(だから見に行ってない)、ちょっと残念でした。
この映画は好きなシーンばかりですが、郊外のピクニックで叔父さんが木に登って「オンナがほしーい!!」と叫ぶシーンはいつかNHKで「私が選ぶ;木に登る名シーン」企画があったら一票ですな。

いやーーーチャレンジャーですね。
そのうえ、

>「このレシートは使用期限が過ぎています」

>ガーン!
>ここまで絵に描いたようにいくと、さして驚きもしない。

さすが大物です!!
実は私も6月末、リミニにおりました。
なんとあの海辺の町に3泊もしておりますです。
それなりに楽しめました。
でも一日はサン・マリーノに行きましたけれど・・・

『マカロニ』がマイナー映画というのは言い過ぎでしたね。とはいえ、私とその周囲では誰もが知っている映画ですが、世間の知名度はどのくらいだろう。
あの映画の主役は、形式的には両名優ですが、本当の主役はナポリという町だと思います。
マストロヤンニのお母さん役の老婆が、屋上庭園で車椅子に乗って水をやりながら、すさまじいナポリ弁で哲学的なことばを吐く場面、閉店のしたくをしているレストランで、二人が酔っぱらって「マリア・マリ」の替え歌で「ヴァ・ファンクーロ」と歌っている場面もいいし、もちろんマストロヤンニの妹の家でエッフェル塔の俗っぽい置物を見てジャック・レモンが顔をしかめている場面もいいですね。
そうそう、マストロヤンニが脚本を書いている大衆演劇もすさまじく笑えました。

ああ、また見たい……けど、なぜかDVDが出ていないんですよね。イタリアでも。事情通の話によると、映画会社の契約の関係らしいとのこと。
うーん、残念。

駄菓子さん!!
『マカロニ』がお好きとは…!嬉しびっくりです。
両名優の素晴らしさはもちろん、素のイタリアが溢れた映画とでも言うのでしょうか(イタリアに暮らしたことのない私が言うと説得力ゼロですが)。
「時間を無駄にするのはいい」と呟くマストロヤンニの台詞に「うんうん」と頷いたものでした。マイナーだったのか…。私は映画好き・イタリア好き仲間に、自信を持って勧めていますが。

…そして。ヘクトルはエットレだったのですね。ありがとうございました。イタリア語永久初心者なので、アクセントの位置には毎度悩みます。しかも堂々と(!)間違えることもしばしば。
以前セルモネータ(映画『ロザンナのために』のロケ地だったとか)に行った時のことです。
「ベノッツォ・ゴッツォーリの壁画が…」とイバって言う私、「ゴッツォリよ」とお散歩中のおばあちゃんに優しく訂正され(A^_^;たしか学生時代に見た画集では、ゴッツォーリだったのに。

gatticelliさん!!!
私にとって、すべての映画のなかで、ベストワンは『マカロニ』なんです!!

マルチェッロ・マストロヤンニとジャック・レモンの共演は最高でしたね。
そして、細部にわたって、これでもかというほどの仕込みの数々。ああ、思い出すだけで胸がつまりそう、あの場面、この場面。
あんなマイナーな映画をご存じとは感激です。
たぶん、ここに書き込んでいる人のうちの何人かも、『マカロニ』がベスト(か、それに近い)という人はいるはずですよ。たぶん。
ああ、興奮して鼻血がでてきた……ウソ、すいません。

ちなみに、監督は「エットレ・スコーラ」なんです。映画の案内でも、よくアクセントの位置が間違えて書かれているので老婆心ながら。私も、イタリア語専門家の知人に直されました (^^;;

駄菓子さん、今晩は。
かなり前のことなのですが、多分ロヴィーゴの駅で日本語のコインロッカーを見た記憶があります。
使用する勇気はなかったけれど。

それよりも『アマルコルド』!
イタリア映画の中でも、エットーレ・スコラの『マカロニ』と並んで大好きな作品です。
初めて観たフェッリーニ作品でもあり。
色んな想いがたくさんつまった、愛すべき世界です。
ニーノ・ロータの旋律が、頭の中で響き始めました♪

ヨーコさん、3週間以上もいれば、もうその町の人のようなものですよね。

この日は曇っていたから、少しは涼しかったかもしれません。
それに、日本と違って夏は湿気がないので、過ごしやすいですよね。

>こういう写真の様に、多くの人を入れた写真を掲載してくれると嬉しいです。
はい、なるべく人かネコが入った写真をアップするようにします (^^;;

2枚目と3枚目の写真、懐かしくて涙ぐみそうになりました。
随分前に3週間余り滞在していたことがあります。
夏じゃなかったので人気は少なく、駅前などは治安も良くなさそうに感じていました。
2枚目の写真の中央部に自転車で走るおじさんが写っていますが、私も毎日自転車で走っていました。
こういう写真の様に、多くの人を入れた写真を掲載してくれると嬉しいです。
そんなに気温が高くなかった日なのかなぁ?
長袖の人多そう、と臨場感が伝わり易いです。

なるほど!
そう考えると、人間くさい……というよりもイタリア人くさいコインロッカーですね。

でも、何より心配だったのが、周囲にひと気のないことでした。駅の構内とはいえ、ホームの端のほうにあって、いかにも「駅とは関係ないよ」という風情。壊れたときに、誰に相談すればよいのか、駅員は対応してくれるのか非常に心配でした。

荷物を受け取るためにレシートを示したら、
「ああ、これ期限が切れてるわ。あと5ユーロだね。」
と言うので、

「まだ2時間経ってない。そんなことないでしょ。」
と言い返すと、

首をかしげながらレシートを眺めつつ、
しぶしぶ荷物を持ってきてくれるような、

人のいる荷物預り所みたいですね(日本語モードでは、そうプログラムされてるのかも・・・)。

アトムズさん、人のいる荷物預かり所に預けるときにも心配になります。
荷物がなくなるとまでは思いませんが、担当者の昼休みの時間が予定より長くなって帰ってこない……なんてありそうですし……。
もっとも、実際にそうした被害にあったことはありませんけど。

一番恐かったのは、シエナのバス乗り場近くで、地上から地下道に行くエレベーターに乗ったときでした。
なんと、ドアがしまったら真っ暗! 動き出して、ドアが開くまでの時間は恐ろしく長く感じられました。

 駄菓子さん。イタリアで機械を信用出来ないって、凄く解ります。私、アレッツォのグランデ広場の脇にあるコイン式の公衆トイレを何度か利用しましたが、不安に思いつつ背に腹は代えられず利用しています。ドアが閉まったは良いけど、開かなかったらどうしようと思うと不安で不安で…。

 機械だけじゃなく、人も不安ですね。アッシージのサンフランチェスコ教会でICレコーダーを借りるのに身分証明書を預けなければならず、教会の外にある小さなブースだったので、帰る時、ここに人がいなかったら、帰れないと思い、かなり迷いました。出て来た時、案の定、誰もおらず、一瞬血の気が引きましたが、ブースの外に出ていただけで、すぐに戻って来たので、無事帰れましたが。イタリアって、何か信用しにくいですよね。

 リーミニってサンマリーノへ行く拠点になる駅ですよね。ラヴェンナから日帰りでサンマリーノへ行った時に乗り換えただけなので、街は見てないのですが、何か写真だけ拝見すると、フェッラーラに似てますね。

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著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
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