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2009-01-23

プーリアの私鉄「南東鉄道」で目撃した「事件」

 イタリアのかかと、プーリア州は私鉄の宝庫である。
 そのうち、南部のサレント半島を網の目のように……とまではいかないが、ザルの目くらいに走っているのがFerrovie Sud Est(フェッロヴィーエ・スドゥ・エスト)、日本語にすると「南東鉄道」である。
 この私鉄は、大都市バーリと世界遺産の町アルベロベッロを結んでいることで、日本人にもよく知られた存在である。
 のどかな沿線風景(一部を除く)、古い車両(一部を除く)に加えて、よく遅れるという3拍子揃った、古き良きイタリアらしさを,伝える魅力的な私鉄であるといえよう。
 趣味的にいうと、イタリアの私鉄界において、サルデーニャ鉄道を東の横綱とすると、こちらは西の横綱というのが私の勝手な感想である。

 レッチェ駅

 今回は、この路線の南側にあたるレッチェ以南の路線に乗った。
 車両は、旧型のディーゼルカーが1両か2両の編成。
 バーリあたりでは通勤通学時に、2階建て客車(たぶんイタリア国鉄のお古)の6両編成というのも見たし、新しいディーゼルカーも目にしたが、このあたりでは何十年前からこのままなのだろう。
 もっとも、かつては、ボディーはカーキ色や濃緑色に塗られていたはずの車両だが、鮮やかな青と赤を中心とした配色になっていた。
 ちなみに、上の写真の中央がそれであるが、左右に見えるのはイタリア鉄道(国鉄)の客車である。

  車内風景

 9時過ぎのガッリーポリ行きは、レッチェを発車した時点では、ほぼ座席が埋まっていた。
 なかなかの利用率で、これなら当分は安泰だろうと、人ごとながらほっと胸をなでおろす。しかも、老人と学生ばかりでなく、労働人口に当たる年齢層の男女の乗客が多かったのはうれしい。

 レッチェから南下していくと、途中で何本もの支線が分かれていくのだが、それぞれ分岐駅できちんと接続をとっているのは、当然ではあるが便利だ。

 その翌日に乗ったのは、オートラントに行く路線。途中で乗り換えるのだが、ガッリーポリに行く路線にくらべると、かなりローカル度は高い。
 そして、その路線で「事件」は起こったのである。
 

途中駅にて

 オートラントの2つ前の駅を発車した時点で、すでに乗客は私を含めて2人になっていた。周囲はオリーブ畑がところどころにあるほかは、ぽつりぽつりと人家があるだけである。
 おそらく、次の駅で降りるのだろう、もう一人の乗客である40歳くらいの男性が立ち上がって、ドアに向かって歩いて行った。
 やがて、小さなホームが見えてきた。

 ところがである。
 列車は、スピードこそ落としたものの、その駅を通過してしまったのだ。

オートラント駅

 どうなるのかと見ていたら、その男性は運転室後ろのドアまで小走りに行き、その鉄製のドアをドンドンドンドンと叩く。
 運転室にいた車掌がドアを開け、その男性がなにやら叫んだところで、列車は急停車した。
 すでに、ホームを通過して、駅の先にある踏切の上だった。
 もっとも、踏切といっても人の姿も自動車の姿もない。ただ、がらんとした空間といったほうがいいだろう。

 やがてドアが開いて、何事もなかったように男性は道路の上に降りていった。
 そして、何事もなかったようにディーゼルカーも走り出した。

 こんな私鉄だから好きである。同じことが日本で起きたら大変だろうけどね。
 私の推測だが、あれは駅を見逃したのではなく、あの駅で降りる人間はいないと勝手に判断していたのに違いない。

 もう1、2度はサレント半島を訪れて、この私鉄路線の全線制覇をしたいものである。

(その後、事件の真相が解明されました。詳しくは、ikeさんのコメントをご覧ください)

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コメント

kokoさん、それは大変でした。
でも、結果的にいい経験をしてよかったですね。
どこの国でそうですが、イタリアの田舎の人はとっても親切です。
とくにプーリア南部の人たちは穏やかな印象があります。
親切すぎて、知らないことまで教えようとして、結果的に間違いを教えてくれることもありますが(笑)

長くなりますが
オスツーニから駅までのバス停がわからなかったのです。
私は英語を話せないのですが片言のスペイン語で過去何度かのイタリア旅行(ローマ以北の観光都市)は困ることもなく過ごしていました。今回の旅はイタリアではスペイン語が通用しないこと(当然ですが)を思い知りました。バス停はネット情報とは違っていて町の人にも聞いたのですが私自身もプチパニックになっていたのか教えてくれていることが頭に入ってこず一時間以上も同じ場所で立ち尽くしていました。結局 親切な若者がバス停まで案内してくれバスに乗れました。
予定よりだいぶ遅くなってしまったので往復で買ってあった普通列車の切符をすてICの切符を買い直しホームで列車を待っていましたが待てど暮らせど入ってこず。
そのうち駅員が身振り手振りで事故がありレッチェ行きの列車は来ないと。駅員(スペイン語が話せた)に相談し、「タクシーで行きなさい」と言われ 駅前に止まっていたタクシーの運転手との交渉の通訳もしてくれました。
で泣く泣くタクシーでレッチェまで帰った次第です。

ただ地方は交通の便は悪いかもしれませんが都会と違い良い意味で緊張感を張詰めていなくても済むのでリラックスできました。
同行の娘が「今度の旅行は出会った人皆が良い人で良い旅だった」と
もちろん私も同感です。

kokoさん、こんにちは。
行ってらっしゃったんですね。
オストゥーニは、バスの停留所から旧市街までが遠かったという問題でしょうか。それを知らないで行くと、レッチェからの日帰りは大変かと思います。
ガッリーポリは、まずまずお楽しみいただけたようで何よりです。小さい町なので、すぐに1周できてしまいますが。
それにしても、そんなに暑かったんですね。お疲れさまでした!

こんにちわ

以前 プーリアに行きたいと投稿したkokodです。

遅くなってしまったのですが先週から今週初めにかけて5泊で短いプーリアの旅を
楽しみました。
レッチェについて二日目に日帰りで出かけたオスツーニで早くも南イタリアの旅の厳しさを思い知らされることに。
全て自分の甘さのせいなのですが、打たれ弱い私はちょっとへこみました。

で次の日はオートラントはやめて列車の本数も多そうだし乗り換えも楽そうだとガッリーポリへ。
レッチェからガッリーポリへは灼熱地獄の一時間半。帰りは二時間以上でした。
窓を開けていても涼しい風が入ってこないのですね。

でも無事に帰ってくれば全てが楽しかった思い出。
碧く美しい海も白く眩しい街並みも夏だからこそ。

駄菓子さんの記事をいろいろと参考になせていただきました。
ありがとうございました。


kokoさん、こんにちは!
プーリアの旅、楽しんできてください。

この鉄道のサイトはご覧になれましたか?
https://www.fseonline.it/downloadorari.aspx
バスも運営しているようですので、プーリアの南部を旅行するときには欠かせない交通手段です。

ここに書いたような出来事は、このような私鉄のローカル線で、ふだん通過扱いの駅でないと起きませんのでご安心を。それでも、ふつうは検札に来た車掌が覚えていてくれるんですが……。
交通関係については、わからないことがあったら、ご遠慮なくなんでも質問してください。

はじめまして。
来年、プーリアへの旅をしたいと思っています。
でも 移動手段をはじめ情報がすくなくて。
検索地獄へ陥り、なんだか旅が上手くいくのか悲観的になってきたところで
こちらにたどり着きました。
記事を読んで笑ってしまいました。
ローカル線に乗った時は降りる駅を書いたメモでも車掌さんに見せるようにします。
もし列車が降車駅を通り過ぎてしまうのに備えてスタンバイも忘れません!

andyさん、こんにちは。
お住まいはサレルノでしたっけ。
Sapriまではイタリア鉄道(旧国鉄)が比較的頻繁に出ていますが、その先やポテンツァ方面になると、なかなか鉄道で往復するのは大変かもしれませんね。
プーリアに行ったら、ぜひこの私鉄に乗ってみてください。

南イタリア在住ですが、ローカル線に乗ったのはカンパーニア州の南端のSapriまで行ったのが最初で最後ですね。列車が好きなのですが車の方が便利で速いので、ついつい車で移動になります。

私のホームページ本家を探すと出てきます (^^;;

尾小屋鉄道・・・・・・
名前だけはどこかで聞きました(^-^;

MIZOさん、そうなんです。
ただ、通過した理由はikeさんのコメントで判明しました!
日本でも、かつて超ローカル私鉄の停留所でそんなことがありましたっけね。
尾小屋鉄道の遊園地前駅がそうでした……(って、いつの話だという感じですが)。

日本の感覚との大きな違い、おもしろいものですね。
どちらがいいかなんて野暮なことを言うのはやめておきます(゚ー゚)

なるへそ~(古い)、そうだったんですね。
疑問が氷解しました。
駅に近づいたときに速度を落としたのも、近くに乗客が隠れていないかを見極めていたんですね。

>ようやく降り方がわかって、大変スッキリしました。

い、いや、そういうことではないと…… (^^;;
本当は、車掌が検札に来たときに降りる駅を言っているはずですが……。
とすると、車掌が忘れてしまったのかもしれませんね。

数年前、南東鉄道のサイトで時刻表をみたら、*印がついてる駅については、「乗降客がいる場合のみ停車」という注意書きが書いてありました(今も同じ運行方法なのかはわかりません)。確か、チステルニーノ駅にも*印が付いていたと思います。

まあ乗るときは列車に向かって手でも挙げればいいとして、降りるとき、いったいどうすればいいんだろうと思いました。日本のバスみたいなボタンは付いてないですしね。

ようやく降り方がわかって、大変スッキリしました。

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著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
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