« ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める | トップページ | チンクエチェントのカラーバリエーション »

2008-12-21

ミラノ空港大追跡(下) --大団円

 午後8時20分、すでにサンパウロ行きの搭乗時刻を20分も過ぎたころ、ゲートの向こうに大柄な男の影が見えた。
--さーあ、来たぞ! 手には? 手には、何か持っているか?

アルゲーロの教会にて

 彼はこちらを見て右手を上げた。その手には黒い小さなものがあった。それが目に入ったとたん、ふーっとため息が出て、全身の緊張が抜けた私である。

「あったぞ!」と誇らしげに彼は言った。「……でも、バッテリーがないよな。あいつのかばんの中か?」

 彼が持ってきた黒いソフトケースの中身は、パソコンの本体だけだった。まあバッテリーがなくても、本体さえあれば一安心である。
 じつは私の超小型パソコンは、バッテリーをセットしたままだと、電源を切っていてもなぜか消耗してしまうのである。だから、使うとき以外ははずすようにしているのだ。
 それがケースからすべり落ちてしまったのだろう。そして、LANケーブルやUSBメモリーを入れておいた小さなケースもなかった。

 私がそう説明すると、
「よし、もう一度行ってくる」と、彼。
 本体さえあれば、あとは多少の金を払えば買い直すことができるが、ここまで来たら乗りかかった船、じゃなくて止めかかった飛行機である。お言葉に甘えて全部取り返しに行ってもらうことにした。

--まあ、20分遅れるのも30分遅れるのもいっしょだよね。もう、あのブラジル人オタクの座席の場所もわかっただろうから、今度は手間もかからないだろうし。

夕暮れのナポリ

 今度は5分ほどで戻ってきてくれた。これで完璧である。
 最後に二人でがっちりと握手。私もたぶん満面の笑みだったろうが、空港職員の彼も得意気だった。
 一仕事終えて、セキュリティチェックの現場にすぐ戻るのかと思ったら、航空会社の女性と何やら話し込んでいる。

「終わったの?」と別の女性に聞かれたので、私は「ペルフェット(完璧)!」と晴れやかに答えた。すでに、サンパウロ行きは予定時刻を30分過ぎていた。

 それにしても、あまりに緊張と興奮が続いたためか、帰りの機内ではなかなか寝つけなかった私である。

« ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める | トップページ | チンクエチェントのカラーバリエーション »

イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

コメント

minaさん、ご心配をかけました。
書いている私も、思い出しながら疲れました (^^;;
まあ、終わりよければすべてよしということですね。

あーーー疲れた。
こっちがフラフラです。
ドラマティックやった。

でもよかったですねえ。

-JW-さん、チャオチャオ

>画像があるんだから取り戻せたんだとは思いながら、

す、するどい! なるほど~
もっとも、フィルムカメラを別に持っていたんです。
それから、最終日に撮ったデジカメ画像も、まだデジカメのカードの中にありましたが。

>安心して見返せば、アリタリアのポスターは秋葉じゃあないですか。

そうなんです。しかも、その前をダイバー姿の男性が歩いているとという画面構成なんですが……なんなんでしょうね。
日本以外にも、アラブやアメリカを舞台にした写真がありました。

ikeさん、わにちんこ。
それにしても不明なのは、15分遅れて悠然とやってきた女性の乗客です。
彼女を待っていたのだとすると、私が出発時刻を遅らせたのは実質15分ということなりますが……。
これからは、セキュリティチェックでも、自分の荷物に目を光らせなくてはと思いました。
そして、パソコンはケースから出して目立つようにしておくこと、バッテリーは取り付けておくということも。

アトムズさん、ブォン・ジョルノ。
たぶん、悪意はなかったと思うんですよ。
最初からの彼のあせり方を見ていると、そんなことを考えるヒマはなかったと思いますし。
そもそも、不器用そうなやつでしたしね。
空港職員の名前を聞いてくるのを忘れましたが、アメリカの大リーグで野球をしていてもおかしくない体格と面構えでしたよ。

Pentaさん、まいど。
みなさん、海外では忘れがたい「事件」がいろいろあるんですね (^^;;
イタリアでは宿泊客のデータを警察に届けるために、パスポートをホテルのフロントに一時預けることになっていますが、それを忘れて、夜中に「パスポートがない!」と真っ青になった覚えがあります。
睡眠時間も削って30分以上もあせって探したのち、気がついてがっくりきました。

Mizoさん、こんにちは
クレジットカードもあせりますよね。
私の場合、妻がイタリアの店に置き忘れたという「事件」もありましたが……。
http://dagashi.txt-nifty.com/weblog/2006/10/post_b29c.html
いずれにしても、心臓によくありませんね。

nqさん、こんにちは、はじめまして……かな?
nqさんはローマ空港ですか。
私の場合、預ける荷物は、万一なくなってもいいくらいの心構えをしているのですが、さすがにパソコンはあせりました。
では、今後ともよろしく!

みなさま、暖かいお言葉をありがとうございます。
すぐにコメントを書きたかったのですが、メインのパソコンが壊れていたんです。
じつは、大団円の記事は、ミラノ空港で行方不明になりかけた超小型ノートパソコンで書いたものです。やはり長文を書くのはつらかった。
ようやく、デスクトップパソコンが復活。仕事も一段落して、メリークリスマスっていう気分です (^^;;

今晩は、駄菓子さん。

画像があるんだから取り戻せたんだとは思いながら、
最後まで引っ張られてしまいました(^^ゞ

安心して見返せば、アリタリアのポスターは秋葉じゃあないですか。

なるほど、そうやって飛行機は遅れ、荷物はどこかへなくなって行くのですね。
よくわかりました。

 そのブラジル人は悪気はあったのかなかったのかどっちだったのでしょう。まあ、でも、とにもかくにもパソコンが無事に手元に戻って来て良かったですね。最初の空港職員の言葉「オレは盗ってないよ」には受けましたが…(^_^;)。日本ならまずそういう言葉は出て来ないでしょうし、流石はイタリアですね。

最終的には取り戻せて良かったですね。

僕は、まだ大阪空港からサンフランシスコに飛ぶときに航空会社のチェックイン・カウンターでパスポートを渡したまま、職員が返えすのを忘れていて、僕もうっかりしてその場を離れてしまったんですが、後でパスポートがないのに気づいて急いでカウンターに戻ったことがありました。

いやぁ、本当によかったですね。
私もアムステルダムの空港で、クレジットカードを土産を買った店に置きっぱなしにするという大ミスをおかしましたが、出国ゲートに届けられました。
オランダに感謝!

結末が待ち遠しかったですが、ようやく大団円にたどり着いて、嬉しいです。
私も、ローマ空港の駐機場で荷物をめぐってドタバタしたことがあるので、他人事とは思えません。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める | トップページ | チンクエチェントのカラーバリエーション »

著書

  • 辞書には載っていない⁉ 日本語[ペンネーム](青春出版社)
  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
無料ブログはココログ

.