« もう一つのナポリ:ヴォメロ | トップページ | ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める »

2008-12-13

ミラノ空港大追跡(上) --血の気が引いた瞬間

 ミラノ・マルペンサ空港というと思い出すのは、いまを去ること8年前、シチリアのパレルモ行きのキャンセル待ちをしたときの体験だ。荷物を預けてゲートまで行ったものの、「定員に達した」というのでとぼとぼ戻ってきたのはいいが、荷物が行方不明になった。
 まさか荷物だけがパレルモに飛んでいったとは知らず、真っ青になって職員に談判して、空港の端から端まで、逆行禁止の標識も無視して探しまわったものである。

 まさか、同じ空港で同じような体験をするとは思わなかった。いやいや、今回の「事件」は、緊迫度からいえば、あのときの比ではなかった。

ミラノ空港でみた日本観光のポスター

 それは、イタリアを発つ12月1日、夜7時半ごろのことであった。無事に国際線のチェックインも済み、私は少しほっとした気分で、「日本に帰ったら、まずラーメンでも食うか」なんて考えながら、セキュリティ・チェックの場所までやってきた。
 X線検査装置を前にして、いつものように、小型のノートパソコンをソフトケースに入れたままプラスチック製のトレイの上に置いた。次に、コートを脱いでこれまた別のプラスチックのトレイに置き、最後にパッグをラインの上に置いた。
 人が詰まっていたので多少は待たされたが、まもなく金属探知機を無事に通過。やれやれとコートを着たところで、一瞬気が遠くなった。
--パソコンがない!

「血の気が引く」とは、よく言ったものである。まさに、そんな気分だった。
 すぐに、「パソコンがない!」と、そばにいた空港職員にイタリア語で訴えると、大柄で小太りの彼は「オレは隠していないよ」とジャケットの前をはだける。
 茫然としている私を見て、さすがに「途中で詰まっていないか、確かめてみたら」と言ってくれた。すでに、その時点で私は見当がついていたが、一応確かめてみた。やっぱりない。

 意を決して、「誰かが持って行ったんだよ!」というと、さっきまでおどけていた職員の表情が変わった。
「あ! あいつか!?」
 彼と目が合って、私はうなずいた。なんか心が通じたみたいでうれしかったが、喜んでいる場合ではない。

機内から見えた富士山

「あいつ」というのは、私の前の割り込んできた30代なかばくらいの、小太りのちょっとオタクっぽい白人男性である。もっとも、割り込んできたといっても合意の上であって、そもそもは空港の態勢に問題があった。
 セキュリティ・チェック待ちの人が増えてきているのに、職員の勤務時間が過ぎたからであろうか、ラインを一挙に5か所から2か所に減らしたものだから、人があふれてしまったのである。

 おかげで、出発時刻が間近に迫った人たちが、先にチェックをやらせてくれと、入れ代わり立ち代わり職員に嘆願しにくる。そのたびに職員ははねつけるのだが、いっこうに列が進まないものだから、繰り返し繰り返し、そんな人がやってきた。なかでも、あせりがありありと見えたのがその彼であった。
 3回もやってきて、とうとう私の2つ前に割り込むことができたというわけである。

 まあ、それはいいのだが、彼は金属探知機で何度もはねつけられる。そのたびにポケットをまさぐって、小銭を出したり、携帯電話を出したりするのだ。
「いっぺんに出せ」と職員は怒鳴るのだが、彼はあせりで頭がまわっていない様子である。そのたびに探知機がピーピー鳴っては私の前に戻ってきて、プラスチックのトレイに金属のものを放り込んでいく。
 あとになって考えてみると、そのときに彼の荷物と、私や私の1つ前の人の荷物の順序がごちゃごちゃに入れ違ってしまったわけである。

 彼は、金属探知機の前後を3、4回往復しただろうか。私はまだ出発時間まで余裕があったので、「しょうがないやつがいるな」と思いつつも、余裕を見せてゆったりと金属探知機を通過。そうしたら、そこにはパソコンがなかったというわけだ。
 好意的に考えれば、ソフトケースに入っていたし,横20cmくらいの大きさだから、パソコンとはわからないのも無理はない。彼は、いくつかのトレイに分けられてしまった荷物を、中身も確認しないで一気にバッグに入れてしまったのだろう。

「追いかけよう!」と大柄の職員は言った。「大丈夫だ、心配するな。あいつはサンパウロ行きだ!」
 こうして、夜のミラノ・マルペンサ空港構内を2人の大追跡がはじまる。だが、行く手にはまだまだ難関が待ち構えていたのであった。

(長くなったので、次回につづく)

« もう一つのナポリ:ヴォメロ | トップページ | ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める »

イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

コメント

minaさん、すいません。
1回で終わるはずだったのが、誤解のないように状況説明を詳しく書いていったら終わりませんでした (^^;;
ようやく、ほんのちょっと時間ができたので、まもなく続きを書きますね。

Pentaさん、こんばんは。
写真にポインタを合わせると、コメントが表示されますよ! たぶん。
確か関東北部の上空から見た富士山の写真です。
「小さなイタリアの村」は、ボーヴァだけでなく、キアナレーア(シッラ)も放映したようですね。

またまた引っ張りますねえ・・・

アリタリアの広告、コニシ電機と丸山なんとかと文字が読めますね。

下の写真は富士山の朝焼けですか、夕焼けですか、それとも、まだイタリア国内で見える山ですか?

8年前にも荷物が行方不明になったんですか。、で、今回も混雑でごった返す中での出来事のようですが、持っていったのは故意なんでしょうかね、続きを早く知りたいです。

夜、放送された『小さなイタリア』は一応録画しておいたので、時間のあるときに見ようと思っています。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« もう一つのナポリ:ヴォメロ | トップページ | ミラノ空港大追跡(中) --サンパウロ行きの離陸を止める »

著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
無料ブログはココログ

.