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2008-07-05

イタリアのドイツ:ボルツァーノ

 28日の午後は、トレントから列車で北上。最後の宿泊地であるボルツァーノ(Bolzano)へ向かった。同じトレンティーノ アルト・アーディジェ州であるが、トレントを中心とするトレンティーノ地域がどちらかといえばイタリア語圏であるのに対して、ボルツァーノを中心とするアルト・アーディジェ地域は完全にドイツ語圏である。

 アルト・アーディジェはアーディジェ川の上流ということで、「上アーディジェ」という意味。ドイツ名では南チロルとして知られている地域である。
 ボルツァーノ(車内のイタリア語アナウンスは「ボルザーノ」に近かった)駅ではドロミティの山々(だと思う)が出迎えてくれた。

ボルツァーノ駅から見える山々

 北イタリアでは背が高く青い目の人が多いが、アルト・アーディジェでは印象として9割がそんな人である。イタリア国内でありながら、そんな人たちがドイツ語をしゃべっているのがおもしろい。

 アルト・アーディジェに入ったとたん、駅名もバスの行き先も、下の写真のごとくイタリア語とドイツ語の併記になる。
 ポルツァーノは、ドイツ語でBozenと記されている。ボーツェンと発音されるのだろうが、実際には「ボーツ」としか聞こえない。

2カ国語の駅の表示  バスの行き先表示も2カ国語

 こうした事情の背景には、トレンティーノ アルト・アーディジェ州の歴史がある。第一次世界大戦後にイタリアがオーストリアから取ってきたものだから、そんなことになるわけだ。
 かつてのイタリア政府がドイツ語禁止・イタリア化を強制したことで、一時は不穏な時期もあったようだが、現在は自治州となりドイツ語も公用語の1つとされて平穏な町となっている(と思う)。

ボルツァーノ旧市街にて

 ただ、変な東洋人がイタリア語で話しかけたら、ゲルマンパワーで弾劾されるのではないかと、内心ビクビクしていたが、そうでもなさそうなので、まずは安心した。

 当日昼間に電話で予約したホテルは、ボルツァーノ駅からバスで数分のところという。一般的にイタリアで市内バスに乗るのは困難の連続だが、ここボルツァーノはだいぶ事情が違っていた。

 あらゆるバス停に、そこに停まる全系統の時刻表と、簡単な路線図が記されているのだ。たまに時刻よりも2分ほど早く来ることを除けば(もちろん遅れることもある)、実に利用しやすい。
 ここは、もはやイタリアではない……いやこれもイタリアの一つの姿なのだ。

 駅やバスターミナルの窓口を見ていると、ドイツ語で話しかける客、イタリア語で話しかける客、英語で話しかける旅行者らしき客、それに対して、窓口の人はみな流暢に答えるのだから偉いものである。

 バスに乗っていても、客は当然のように自分の母語で運転手に問いかける。運転手はどっちのことばでもきちんと答えるのだ。
 駅前のバス停でバスの時刻表を見ていたら、ドイツ人旅行者らしき大きな荷物を持った女性にドイツ語で話しかけられた。地元で働く中国人とでも思われたのだろう。

旧市街の広場

「イタリア語は?」と私が卑屈に問い返すと、私よりも少しうまいイタリア語で、「このバスは、もう定刻より10分過ぎたけど、まだ来ないの」と私が見ていたのとは別の時刻表を指さす。
 気の毒に、そのバスはたぶん定刻よりも2、3分前に通過したに違いない。しかも、その日は日曜日だったから本数が極端に少なくなるのだ。

 ボルツァーノの人口は10万人たらず。町の中心からも周囲の山々が見えるのが気持ちいい。

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イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

コメント

KAZU1304さん、こんにちは。
3週間トリエステというのはいいですね! お仕事でしょうか。

さて、トリエステ→ボルツアーノ→インスブルックですが、もちろん列車で行けます。ただし、乗り換えは必要ですが。

トリエステ→(ヴェネツィア)→ヴェローナ→(ボルツァーノ)→ブレンネーロ→インスブルックと、標準は2、3回乗り換えでしょうか。

トリエステ→ヴェローナの直通は少ないので、ヴェネツィア乗り換えが便利です。
ヴェローナ→インスブルックは国際列車がありますが、1日1本くらいだと思うので、国境のブレンネーロ駅でイタリアの列車からオーストリアの列車に乗り換えが便利です。

また、何かありましたらご遠慮なく。

教えて頂きたいのですが、9月に用事で3週間トリエステに滞在することになりました。その間にインスブルックにいる友人を訪ねるのですが、地図で見るとどうも電車で行けそうで、
トリエステ→ボルツアーノ→インスブルックで電車の乗継はあるのでしょうか?無知なもので教えて頂ければと、、、。イタリア語は多少できます。

Pentaさん、中長距離バスの場合は、運転手に直接運賃を払うことはありますが、それでもたいてい切符を出してくれます。
ロマ(人)は俗にいうジプシーです。
ジプシーの語源は「エジプシャン」だそうで、エジプトのほうからやってきて、エジプト人のように音楽が達者な人という意味だと、以前エジプト人に教えてもらったことがあります。本当かどうか知りませんが……。
だからもともとは差別用語ではないはずですが、現在のヨーロッパ人は、ロマ語で「人」を意味する「ロマ」を民族名として使っているようですね。
その先祖はインドあたりからやってきたらしいと聞いております。

アトムズさん
いや7割から8割がドイツ語を母語とする人だそうです。
町を歩いていても、そんな割合だったように感じました。
イタリア国内にあってイタリア語が少数派という珍しい地域です。まあ、その背景には歴史的な問題があるのですが。

がっちゃんさん、ボルツァーノの言語事情はなかなか興味深いものでした。
老人はみんなドイツ語かと思いきや、おばあさんが携帯電話で娘らしき相手とイタリア語で話しているのを聞いたこともありました。
当時の政府のイタリア化政策によって、無理やり南部から入植させたイタリア人も多いらしいですね。

イタリアのバスは降りるときに直接硬貨を入れるんじゃなく、チケットを買うという手段なんですね。

昨日、ニフティのニュースに「イタリアのロマ人に指紋押捺強制」というのがありましたが、《ロマ人》と言うのは俗に言うジプシーという人たちですか?

 ボルツァーノに着いて最初に目に入ったのは「toiletten」(スペルは怪しいですが、トイレの意味)と併記されたドイツ語でした。ここは3割の人がドイツ語を使うのですね。

 着いた日は日曜だった為か、殆ど人出がなく閑散としていたのですが、翌日は朝市も立っていて賑やかでした。

 各建物の窓には色とりどりの花が飾られていてとても綺麗な街でした。ちょっと行くとロープウェイに山の上にも登れるし、ドロミテの山の麓であることを実感しました。
あまりに街が綺麗なので、逆にゴミゴミしたイタリアらしい空気が恋しくなってしまいました。

 銀行でリラに両替したら、5000リラだったかな?騙されそうになった思い出もあります。「返せ」というイタリア語が解らなかったので、「バック、バック」と言うと「ちっ!ばれたか」と言う様にいたずらっぽく笑いながら返して来ました。こういうところはイタリアなのですね(^_^;)。

北イタリア精力的に回っていらっしゃいますね。
以前、このボルツァーノの近くに工房を持つ、木彫りの人形の職人と一緒に仕事をしたことがあるのですが、一応普通にイタリア語で会話するものの、道具についてなど少し質問をすると、えっとえっと、イタリア語ではなんていうんだっけ?とドイツ語しか思い浮かばない様子でした。
バイリンガルといえど、どっちが主かと言われればドイツ語のようですね。

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著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
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