「カールは持ってる?」
イタリア人の英語は、日本人にわかりやすいというのが通説である。
確かに、「ローマ字読み」に近い発音をするので、少なくとも英米人が普通にしゃべっているよりは、聞き取りやすいかもしれない。
でも、「イタリア語が出てくるぞ」と身構えているところで、英語が飛び出してくると、まったくわからないことが多い。
そこで、昨年末に行ったシチリアの話であるが、ホテルでも店でもずいぶん英語をしゃべる人が多かった。フロントに着くと、まず英語で話しかけてくる。
これまで3年連続で通ったカラーブリアにくらべると、その差は歴然としている。さすが世界の観光地だ。
ラグーザだったか、ホテルでチェックインの用意をしていると、フロントの男性に英語らしき言葉でこう話しかけられた。
「カールはある?」
「は?(カールって何だろう)」
「カールは?」
「へ? 何?(まさか、♪それにつけてもおやつは……のアレじゃないだろうしなあ)」
「カール」
「ほ? ……うーん、イタリア語で言ってみて!」
すると、彼はこう言ったのだ。
「マッキナは?」
「なーんだ。車のことか……。持ってないよ。バスで来た」
「オーケー」
というわけで、やっぱり英語よりも、イタリア語のほうが聞き取りは楽だなあと思ったしだいである。
つまり、このフロントのお兄さんは、「CAR」の「R」をイタリア風にしっかり発音していたということである。
それに加えて、たぶんほかのヨーロッパ諸国もそうだろうが、イタリアで英語といえば、当然イギリス英語である。そして、イギリス英語は、確かにアメリカ英語よりも「R」をしっかり発音するようだ。
「アメリカ英語なんてダメ。英語を習うんなら、やっぱりイギリス英語だね」
アメリカには多くの同胞がいるはずなのだが、それがイタリア人の多数意見らしい。

それで思い出した。
十数年前にスリランカに行ったときのこと。
数日間付き合ってくれた現地のドライバーが、車を運転しながら、「タイヤルがどうの、タイヤルがこうの」と、しきりにつぶやいていたことがあった。
「はて、台湾のタイヤル族のことかな。でも、スリランカとタイヤル族とは関係なさそうだしなあ」
そして、「タイヤルの交換をしなくては」という一言で、ようやくわかった。
車のタイヤの調子がおかしいと言っていたのである。
そういえば、スリランカもイギリスの植民地だった。
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