『日本トンデモ祭』
日本の祭りというと、京都の祇園祭とか東京の神田祭りなんかを思い出す人が多いだろう。まあ、それは確かに代表的な祭りなのだが、こうした大規模な祭りには小さいころからなじめなかった。
下町生まれ、しかも小学生時代は浅草で育ったくせに、祭り嫌いな子だったのだ。
そもそも、人に指示されて行動するのが嫌いだったので、大勢の人間がまとまって動くのが気に入らなかったのかもしれない。
「大の大人が、揃いも揃って夢中になっちゃって。何が楽しいんだろうね」なんて内心で思っていたわけだ。嫌な子である。
だが、この本に登場する祭りは違うんだなあ。軍隊的な統制もないし、説教臭い道徳も登場しない(と思う)。
副題は「珍祭・奇祭きてれつガイド」。だが、マスコミにときどき登場するような「奇祭」とは、よくも悪くもケタが違う。
ピンクの男根が町を練り歩く川崎の「かなまら祭り」
逆に巨大な女性器が町を行く犬山の「大縣神社豊年祭」
ピエロのような怪人が「笑え! 笑え!」と強要する和歌山・日高川の「笑い祭」
人びとが神官たちに悪態をつき供え物を略奪する茨城・岩間の「悪態祭り」
棺桶から生き返った幽霊がズンドコ節(!)を踊る秩父の「ジャランポン」
乞食に扮して広場にたたずむ男性に人びとが敬意を表する岐阜県川辺の「こじき祭り」
などなど、アナーキーでファンキーな祭りが満載である。
行ってみたい、見てみたい。でも、あまりポピュラーになってほしくない祭りも多いなあ。乞食祭りの乞食役にカメラの砲列が向けられるようになったら、つまらない。
まあ、いずれにしても、こんなばかばかしい祭りがあることに、日本文化の底力を見るような気がするのである。
祭りに対する著者のスタンスもいい。どんなばかばかしい祭りにも畏敬の念を忘れず、しかし野次馬精神を失わない。けっして、偉そうな顔をしてウンチクを語らないところに好感が持てる。
(発行:美術出版社、著者:杉岡幸徳、定価:1500円+税、初版発行:2005年10月10日、ISBN4-568-43061-5)
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