信州の山の中と見紛うラークイラ
10月8日朝、バーリから列車で北上。実は、どこに行こうか、最後まで迷っていた。
10日の夜までにローマ空港に着いていなくてはならないので、なるべくその近くまで行っておきたい。
だが、8日は日曜日である。走っている列車が少なく、ローカル線に至ってはほとんど運休。時刻表と長時間にらめっこした結果、ペスカーラ(Pescara)で乗り換えれば、ローマ行きの列車に接続することがわかった。
とはいっても、いきなりローマ入城ではつまらない。どこか途中にいい町はないかと思って選んだのがラークイラ(ラクイラ)(L'Aquila)であった。
ほとんど踏み入れたことのないアブルッツォ州の州都であり、しかも都市名がなぜか冠詞つきになっているのが、昔から気になっていた町だ。
ペスカーラで乗り換えたローマ行き列車は、やがてアペニン山脈の山ふところ深く分け入っていく。車窓には、山あり谷ありの見事な風景が展開していった。
「ううむ、時間があって荷物がなければ、この駅で降りるところなんだが……」
そう思った駅は数知れず。次回の旅行に向けての宿題ができてしまった。
乗り換えのために下車したスルモーナは、時間が止まったような渋い雰囲気の駅だった。
ここにきて急速に近代化が進んでいる南部の駅よりも、よほど古めかしい。
スルモーナからはたった1両のディーゼルカー。30分ほどで着いたラークイラ駅は、州都の中心駅とは思えないほど、こぢんまりとしていてびっくりした。
さて、駅から中心部までは800メートルほど離れており、しかも急坂になっているのだが、日曜日のためかバスもタクシーも見当たらない。
列車を降りた数十人は、みな思案投げ首だったが、意を決したように、カナダ国旗をリュックに貼ったカップルが坂道を登りだした。それに私も付和雷同。旅行が終わりに近づいているだけに、ワインやらジャムやらの重さがこたえる。
幸いにも、この町の標高は700メートルあまりとあって、空気がひんやりとして気持ちがいい。うっそうと生い茂った木々が、ちょっぴり黄色く色づいている様子は、カラーブリアの乾燥した荒々しい風景を見慣れた目には新鮮であった。
ちょっと信州あたりの高原に来たみたい。
ホテルは、広場から少し降りたところの4つ星に決定。
絨毯が敷かれたロビーは広々として天井が高く、さすがに4つ星である。フロントのおじさん(といっても下手をすると私よりも年下かもしれないが)はスーツを着込んで、背筋もピンと伸びている。
でも、ロビー全体がどこか薄暗くてくたびれているのは、単にシーズンオフだからではあるまい。
もっとも、これでピカピカしていたら気後れがしてしまうので、これでよいのである。エレベータも旧式で狭苦しいのがなかなかよろしい。

さて、部屋に荷物を置いて外に出ると、もうすっかり日が暮れていた。日曜日の夜ということもあってか、中心部の通りはすさまじい人が繰り出して散歩をしている。
夕食は、ちょっと気分を変えて、ビッレリーア(ビール屋)にした。
アイリッシュパプ風の店内は、これまた中がだだっ広いが、まだ時間が早いこともあってか、客は私一人であった。
ギネスを飲み、ピアディーナ(Piadina)を食す。
恥ずかしながら、ピアディーナという食べ物を初めて知った。かつて南インドでお目にかかったチャパティのような丸くて薄いパン生地に、ハムやらチーズやらをはさみ、折り畳んで食べるものであった。
パニーノよりも食後感があっさりしていていい。結局、翌日の昼食も翌々日の昼食もピアディーナで済ませた私であった。
結局、大半を移動に費やした1日であったが、たまにはこんな日もいいものである。
もっとも、その反動が翌日にやってきて、山中を暴歩(暴走ではない)することになるのだが……。
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