« カラーブリアの桃源郷・クロトーネ | トップページ | バルレッタ、トラーニだらだら歩き »

2006-11-14

グラヴィーナに行ってはみたけれど

 本当ならば、帰国までの数日間、クロトーネ近辺のカラーブリア州北部に居座って、丘上都市めぐりをするつもりだった。
 だが、天気予報によれば、寒冷前線が南部に迫り、2、3日は悪天候が続きそうな模様。チロ、ロッサーノ、コリリャーノといった町は、次回への宿題にするほかなかった。

 そして、行き先をあれこれ検討した結果、アドリア海沿いに一気に北上して、以前からの宿題となっていたグラヴィーナ(Gravina)に向かうことに決定した。
 メタポントで急行列車を下車。1日3往復のバスでマテーラに向かい、宿に荷物を置いて、昼すぎから私鉄(アップロ・ルカーネ鉄道)でグラヴィーナへ。さらに翌日は、ポテンツァに向かうという完璧な計画であった。

グラヴィーナの旧市街にて

 さて、グラヴィーナという名前は、峡谷、陥没地を意味しており、旧市街の対岸には、マテーラで見るような古い洞窟住居の跡がある。
 もっとも、洞窟のある対岸に渡る橋は1本のみ。旧市街をぶらぶらしているうちに道を間違えてしまい、気がついたときには町の端まで歩いていた。
--まあ、いいか。ここからでも洞窟は遠目に見えるし。旧市街も立派な教会がたくさんあって見応えがあるからね。
 と心のなかで一人負け惜しみを言う私。
 グラヴィーナの旧市街は、あちこちで袋小路になっていて、アルタムーラにちょっと似た雰囲気であった。

 だが、いま一つ町自体の印象が残っていないのは、単に昼休みの時間帯前後に滞在していたというだけではない。マテーラへの帰途に、我が身にふりかかった「事件」のせいなのである。

 旧市街から町はずれにある駅まで歩くこと20分。小さな駅舎の中で、あらかじめ買ってあった切符を改札機にガチャンと通したときである。
「あ、ダメだ、ダメ」
 と窓口の向こうから声がした。
「えっ、なんで?」
「今日はストなんだよ。ほら、これ」と、年配の駅員が改札に貼られた紙を指さす。
「だって、さっきはこの列車でここまで来たんだよ」
「ああ」と駅員は困ったような顔をした。「あれは、ストがあっても運行を保証されている列車なんだ」

 そういえば、そんなのもあるのだった。
 イタリアではしょっちゅうストがある代わりに、通勤通学用や長距離列車など、一部の列車やバスは、ストの日でも動くことになっている。
 全国規模のバスのストがあるという話は耳にしていたが、マテーラの町でもバスが動いていたので、もう中止になったとばかり思っていた。
 しかも、ここはバスじゃなくて鉄道である。私鉄だけど。

旧市街で見かけた不思議なネコ

「じゃあ、マテーラに行く列車はないの?」
「きょうは、もうない」
「ほかに交通機関は?」
「ない」
「どうすりゃいいの?」ととまどう私。
「うーん」と駅員も一緒に困ってしまった。

 それにしても、どうせストをやるなら全部止めてほしいものである。ストって、こんな生ぬるいんじゃなくて、もっと必死にやるべきもんじゃないの……と心のなかでつぶやく私であった。

「じゃあ、タクシーで帰るしかないか?」
「そうだねえ。でも、この町にはタクシーがないんだ」と駅員。

 もうやけくそで、この町に泊まろうかと思ったとき、奥にいた若い駅員がこちらにやってきた。
「オレが送ってきてやろうか」と年配の駅員に話しかける。
「そうだな」と年配の駅員。
 彼は改めて私に向かって、「自家用車があるから、マテーラまで送っていこう。でも、ガソリン代の分なんかを、ちょっと払ってくれないか」
 こうして話はつき、私は無事にマテーラにたどり着くことができたのである。

「マテーラはね。イタリアの県庁所在地のなかで、ただ一つ国鉄が走っていない町なんだ。だから、アップロ・ルカーネ鉄道が止まるとどうしようもない。バスも同じ会社だからね」と、彼は運転しながら人ごとのように言う。
「ホント、しょっちゅうストがあるんだよ。日本はどうなんだい?」
「3、40年前はよくストがあったけどねえ」と、私は小学生のころを思い出しながら答えた。

 マテーラまでは30分ほど。だが、車がマテーラの町に入ったとたん、彼は道がわからなくなった。
「いやあ、ほとんど来たことがないんだよね」
「こんなに近いのに」
「ああ」
 なるほど、これがイタリア式なのである。こうして彼も、めったにほかの町に行くことなく、やがてはグラヴィーナの親父軍団の一員となって、昼や夕方になるとバールや広場に繰り出して、毎日同じ仲間ととりとめのないことをしゃべるようになるのだろう。
 そんなことを知っただけでも、ガソリン代を払って乗せてもらった意味があったというものだ……って、また負け惜しみ。

« カラーブリアの桃源郷・クロトーネ | トップページ | バルレッタ、トラーニだらだら歩き »

イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

ネコ」カテゴリの記事

コメント

それから、コセンツァ~カタンザーロのカラーブリア鉄道も。

>グラヴィーナからアップロ・ルカーネ線でポテンツァに抜ける
おいらもこれ宿題。

やっぱり、グラヴィーナの対岸も「宿題」かなあ。
まあ、マテーラ周辺には、まだまだ行かなくてはならない町も多いので、喜んで宿題にとっておくことにします。
グラヴィーナからアップロ・ルカーネ線でポテンツァに抜けるのも乗り残してしまいましたし。

ストライキ時の運行保証列車って、全体の4割くらいはあるんですよね。あまり会社の売上に影響しないんじゃないかという気がします。

グラヴィーナの対岸の洞窟ですが、数年前に行ったことがあります。確かに、そこからの旧市街の眺めは独特のものがありました。ただ辺りはゴミが多く、ならず者が集まって悪さをしている雰囲気が漂ってました。行かなくて正解だったかも知れません。

まあ、こう言うと、かえって行っておきたかったと思われるかも知れませんが。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« カラーブリアの桃源郷・クロトーネ | トップページ | バルレッタ、トラーニだらだら歩き »

著書

  • 辞書には載っていない⁉ 日本語[ペンネーム](青春出版社)
  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
無料ブログはココログ

.