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2006-10-28

マルタ語の響きを味わう

 空港からヴァッレッタ(バレッタ/Valletta)の中心部に向かう道を走っていく途中、ある小さな坂を登りきったところで、行く手の視界が開けた。思わず、「おおっ」と声が出る。
 前方に見えてきたのは、見渡す限り、びっしりと白っぽい建物で埋められた町であった。

「兄さんは南イタリアに詳しいんだって? じゃあ、シチリアの町に似ているだろう。でも、マルタのほうが木が多いんだ。冬になるとだいぶ雨が降るからね」

 たまたま、空港から都心まで送ってくれることになった、ある公的な仕事をしている知日派の老人は言う。

「マルタ人は英語が話せるし、イタリア語もほとんどが話せるから大丈夫だよ」
 彼は、早口だが単調なイタリア語でこう言ってくれた。

ヴァッレッタ市内

 町の周囲は、まさに城砦都市というにふさわしいたたずまいだった。堅固な砦の様子は、海岸や川岸から町を見るとよくわかる。
 そうか、昔の敵は海から来たんだよな、と気づく私。となると、導入からマルタらしさを味わうには、海からの入国がよかったに違いない。

 マルタでは何をしようという予定はまったく立てていなかったが、それでも以前から興味を持っていたことがあった。それはマルタ語である。
 マルタの公用語はマルタ語と英語の2つとされているが、マルタ人同士が話しているのは、まずマルタ語のようである。
 マルタ語はラテン文字で表記されているが、その基底はアラビア語だという。そう言われてみると、確かにアラビア語に近いリズムと発音が感じられる。実際に、数字はアラビア語そのものだとのことだ。
 でも、そんななかに、しばしばイタリア語や英語の語彙が聞き取れるのがおもしろい。

 ホテルの前に着いたとき、私は老人に尋ねた。
「『ありがとう』は何て言うの?」
「グラッツィだよ。イタリア語のグラッツィエから『エ』を取りゃあいいんだ。簡単だろ」
「じゃあね、グラッツィ!」
 結局、マルタ語はこの一言しか覚えなかったが、あちこちで乱発してきた。この一言だけでも、多少ウケは違ったように思える。

クラシックなバスもいるバスターミナル

 さて、都心に着いたときは昼休みの最中。そんなところを散歩してもしかたがないので、日が傾く前にバスでちょっと遠出をしようと考えた。遠出といっても、1時間半もあれば島の端まで着いてしまうようなところであるが……。

 結局、バスで30分ほどの丘の上にある町ムディーナ(イムディーナ/Mdina)に行くことにした。まさしく、アラビア語で「町・都市」(マディーナ/メディナ)という意味である。

 ムディーナは、城壁に囲まれた静かな静かな町であった。ちょっとプーリアの町を思わせる雰囲気である。狭い道で出会うのは、ドイツ人やアメリカ人の団体ばかりだった。
 日なたは恐ろしいほどの日射し。
 ヴァッレッタの町を見下ろす展望台でぼんやりしていると、暑さのためか、一瞬自分がどこで何をしているのかわからなくなってしまった。

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イタリアの旅 北から南まで」カテゴリの記事

コメント

まあ、イタリアに近いのと同様に、北アフリカに近いですからね。シチリアも、アラブの影響が強かったですし。
日本人をつかまえて、住所にアラビア文字を書くというのは実にいいですね (^^;;

イタリアに近いのに、アラビア語なんですね。
アラビア語と言えば、エジプトに行った時に覚えた
「ショコラン」と「マッサラーマ」しか覚えていませんが(^_^;)。
写真を撮って上げたら、送ってくれと言って
住所を書いてくれたけど、アラビア文字って、
模写する事すら出来ませんね。

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著書

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