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2006-10-08

マテーラで警察に行く

 アルタムーラのパン屋をあとにして、P師範の推薦するもう一軒の高級食材店に行ったときに、事件は起こった。
 いや、正確にいうと、「このチョコレートには何が入っているのか」だの「ナッツ入りはないのか」だのと大騒ぎの後に、ようやく買うものを決め、支払いをする段になって、すでに起きていた事件が発覚したといったほうがいいだろう。

マテーラのりりしい飼い猫(本文とは直接関係はありません)

 たんまり買ったチョコレートの代金を、クレジットカードで払おうとしていた妻が叫んだ。
「カードがない!」
 財布はちゃんとあるのだが、メインで使っているカードが1枚だけ見つからないというのだ。
「1枚だけ落としたのかなあ……あ、きのうマテーラで服を買ったときに返してもらわなかったのかも!……でも、レシートはあるから返してもらったのかなあ……ああ、どうしよう、どうしよう、どうしよう」

 とりあえず、その場は現金で支払いをすませ、大急ぎで駅に向かった。
 ただでさえ、買い物に夢中で、予定していた電車にぎりぎり。これを逃すと、マテーラへの帰りは8時半になるという瀬戸際で、かろうじて全員が電車に乗り込むことができた。

「どうしよう、どうしよう」と車内でもうるさい妻。
「いくらここで心配したってさあ、しょうがないでしょ。きのうの店にあるかもしれないし、カードを止めるにも今は電話ができないし」と無責任な私。
 と、自分で言って気がついた。アルベロベッロのN夫妻に調達してもらった携帯電話があるではないか。レシートに書かれた番号に電話すればいいのである。

 本当は、イタリア人にイタリア語で電話するというのは、極力避けたいのが本心である。ホテルの予約やタクシーの手配なら決まり文句だけで済むが、今回のは事情が込み入っている。
 とはいえ、ツアコンとしてはしかたがない。清水の舞台、いやマテーラのサッシから飛び下りる気分で、携帯電話の番号を押した。最初のせりふだけは決めておいて。

 電話の向こうから、「プロント(もしもし)」というダミ声の女性の声がした。きのうの店にいたねえちゃんに間違いない。
「あー、うー。きのうの夜、日本製のクレジットカードが1枚置き忘れられていませんでしたでございましょうか?」
 すると、ダミ声のトーンが一段高くなった。
「あったわ、あったわ、あったわ、あっーたわ!」

 ほっとした私に、彼女は早口でまくしたてる。すべてが聞き取れたわけではないが、どうやら、こんなような趣旨であった。
「次の目的地に出発するだろうから、この店にカードを取りに戻ることはないだろうと思って警察に届けたわ」「警察ならばどのホテルに泊まっているか、わかるからね」「ホテル・サンタンジェロってわかったから、ホテルにも連絡がいっているはずよ」

「ははあ、ありがとうごぜえます。で、私はどうすればいいんでしょうか」
 彼女のボルテージはさらに高まる。
「○※▲警察! ▽×■ホテル!、☆@&!!、わかった、わかった、わかったー?」
「ははあ、わかりました!(ほんとはよくわからないけど……)、ありがとう、ありがとう、ありがとう!」
 とにかく、その店に行くのではなく、ホテルに戻るのが一番のようである。警察に行くにしても、場所がわからないし。

サッシ内にあるサン・ピエトロ・カヴェオーゾ教会

 ホテルにたどり着いたときには、とっぷりと日は暮れていた。
「ニュースがあるわよ!」とフロントの人に笑顔で出迎えられる。聞くと、カードは警察にあるとのことで、警察にも連絡をとってもらった。
 幸いにも、すぐに出頭すればすぐに返してもらえるという。翌日は9時に出発の予定で、長距離のタクシーも手配していたので、ツアコンとしては一安心。
 警察までは歩けない距離ではなかったが、親切にもホテルの従業員の一人が車で送ってくれた。

 警察には、ツアコンとして私も同伴。これで、イタリアの警察に厄介になるのは、1985年以来3度目である。(第1回目と第2回目について、知りたいという奇特な方は、駄菓子のイタリア無駄話第1話をご覧いただきたい)

 無事にカードを取り戻したところで、洋服屋のねえさんにも一言お礼を言いに行こうということなった。
「いやあ、お手数をかけました」
 ねえさんは、派手な造作の顔をほころばせて、「私は大丈夫よ。でも、すぐに戻ってきてよかったわね」と言う。
 きのうは、ちょっと気取った印象があったが、再び会って話してみると、気のいい姉御という感じであった。早口のだみ声もべらんめえ調に聞こえる。
「じゃ、楽しい旅をしてちょうだい!」

 2年前に来たときもそうだったが、マテーラで出会った人たちはみんな親切で、思いやりにあふれている。
 マテーラで味わった親切はほかにもあるのだが、それは帰国後の総集編にとっておこう。

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コメント

そう、大変なことでした。……が、あまり緊張感もなく、なんとかなるだろうという気分でやっていたのがいいのかもしれません。

うわ~、とんでもない「果」でしたね。でも無事にリターン、本当に何よりでした(*^^)v
店でのクレカやホテルでのパスポート取り忘れ。日本では経験しがたいだけに本当に注意しなければなりません。
それにしても数年前からイタリアでは8日以上滞在する場合は観光でもクェストゥーラに届けなきゃいけなくなったんですよね。ホテルに泊まる場合は代わりにやってもらえるけど、友人の家を泊まり歩く場合、めんどくさいな!と思っていました。でもこういう状況になった場合を考えると、やっとかないといかんですな。あ~また貴重な一日がつぶれる(^^ゞ では、続きはどうぞツアコンペースで(*^^)v

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  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
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