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2006-10-16

ナポリに函館山はなかった

 すっかり暗くなってしまったナポリの下町をうろつく我々。ナポリ大学の近くでチョコレートを買って、もう用事は済んだはずだ……と私は思うことにした。
「じゃあ、いったんホテルに戻りますか。お腹すいたら、また出直すとして……」
 だが、そんな私の誘導に乗ってくる義母ではない。
「いや、夜景が見たい」
 足が痛いと言いながら、いったいどこからこのエネルギーが湧いてくるのか。まあ、明日が帰国なのだから、多少のわがままは聞かなくてはならないところである。

 とはいえ、ナポリの夜景なんてどこから見たらいいのか。
 眺めがいいというポジッリポの丘まで行くには、かなり遠い。それに、夜ではヴェズーヴィオ(ヴェスビィアス)山も見えない。
 まずは、町の中心にあるガッレリーア・ウンベルト(しゃれたアーケード街)のバールで生オレンジジュースを飲みながら、妻の持つ「地球の歩き方」で作戦を練ることにした。

ポジッリポからの展望

「じゃあ、このサン・マルティーノ修道院というところに行きましょう。ほら、この本に展望の写真がありますよ。すぐそこからケーブルカーも出ているし……」
 私は提案した。だが、この選択が大きな誤りであった。
 もっとも、どのみち正しい選択なんてなかっただろう。いや、「地球の歩き方」が悪いわけじゃない。ナポリで夜景を見ようということ自体が間違っていたのだ。財布をすられたり、転んでけがをしたりしなかっただけ幸運だったと思おう。
 まあ、ともかくケーブルカーを乗るあたりまでは、まだみんなうきうきしていたことは確かである。

 ケーブルカーを降りると、お祭りということもあるのか、駅前にはかなりの人が集まっていた。そして、その大半の人びとは同じ方向に歩いていく。
 近くのおじさんにサン・マルティーノへの道を尋ねると、「みんなのあとについていけばいい」と教えてくれた。
 こんなにたくさんの人が行くんだから、さぞかし眺めがいいに違いない--そんな期待に、だらだら坂を登る約20分の道のりを、私たちは耐えることができたのである。

 そして、疲労困憊の末、ようやくサン・マルティーノ修道院前に到着。そこには、おそらく千人以上は人がいたであろう。行き止まりの広場では、ロックコンサートが始まっていた。
 そして、問題の市内展望である。
 眼下には、オレンジ色の街灯がちょびちょび見える。でも、少なくとも夜景を楽しむという感じじゃないなあ……とツアコンの私はおそるおそるみんなの顔を見る。
 すると、義母はこう言った。
「なに、これ。函館山のほうがずっとええわ」
 反論しようにも、あまりにも表現が適切すぎて、何も言えなかった。

「よっぽどナポリの人は楽しみがないのかなあ」
 そこに集まった群集に、妻もあきれ気味である。
「タクシーはないのかね」と義母は言うが、こんな祭りの夜にタクシーが来るわけはない。
 私たちは疲れ切った足をひきずり、無言のまま、ケーブルカーと地下鉄を乗り継いで、メルジェッリーナにある宿に戻ってきた。

 ああ、明日の昼には、みなさまはナポリ空港から帰国の途につく。明日の午前中で、きょうの失敗を取り戻せるのだろうか。
 そんな心配を数秒ほどした後、疲れて寝入った私であった。

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コメント

アトムズさん、こもさん、どうも。
サン・マルティーノは、昼間に行けばいい眺めなんでしょうね。なにしろ行ったのが夜ですから……。
この写真は、ポジッリポ(Posillipo)の丘の上あたりです。
(写真にカーソルを合わせると説明が出る……かも)
タクシーで行ったもので正確な場所はわかりませんが、地味な展望台になっていました。

駄菓子さん、こんばんは。

私はナポリの絶景見れましたよ。サンマルティーノ修道院のルーフテラスのようなところです。地元の兄ちゃんに連れていってもらったのがよかったのかもしれません。当日は生憎ヴェスビオには雲がかかってはいましたが。意外と絶景が楽しめるところは少ないのかもしれませんね。

参考 http://homepage3.nifty.com/yuko_como/94npl.html

 ナポリの夜景は、ホテルからが一番奇麗でした。ナポリのランドマーク?ともいうべき、ジョリーに泊まっていたのですが、廊下の端に窓があり、そこからの夜景が奇麗でした。本当は、どこかちゃんとしたところから夜景撮りたかったんですが、場所が解らず…。
 「ナポリを見て死ね」と言われる絶景も見たくて、カポディモンテ、サンマルティーノと駆けめぐりましたが、結局、どこも景勝地ではなかった様で、ベスビオを正面に見られるあの絶景は一体どこで見られるのでしょうか?サンマルティーノは多分美術館と修道院が別なんですかね。もしかしたら、修道院に行ってないのかも。駄菓子さんの写真の景色が見たかったんですが、これはどこですか?

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