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2006-10-04

豪雨の中をマテーラ参り

 アルベロベッロからマテーラ(Matera)へは、豪雨の中の移動となった。
 前夜からぽつぽつと雨粒が落ちていたのだが、夜中には雷とともに激しく雨が降り始めたのだ。

 アルベロベッロの駅は、町の一番低いところに面しているために、駅に向かう道はほぼ川と化していた。
「毎年、お祭りには必ず雨が降るけれど、今年は特別ね」
 あまりの雨に同情して、駅まで送ってくれたホテルのお姉さんは言っていた。
 もっとも、1時間に20ミリ程度といった感じで、日本ならばさほど驚くべき雨量ではない。長時間雨が続いていたとはいえ、雨に対する備えが日本ほどなされていないのだろう。
 それでも、場所によってはかなりひどかったようで、車窓から見える畑地の一部は、まるで湖のようになっていた。

マテーラのサッシ

 途中駅からは線路が水につかったようで、隣のノーチ駅からプティニャーノ駅までの区間はバス代行になってしまった。雨の中を重い荷物を持って乗り換えるのは大変である。ツアコンはつらい。
 たまたま、アルベロベッロ駅で出会った日本人男性は、「前の列車で行くと、途中乗り換えになるから、わざわざ次の直通を選んだのに」とぼやいていた。
 そういうものなのである。イタリア旅行と人生は。

 そして、プティニャーノ駅で再び乗り換えた列車には、途中から下校の中学生が乗り込んできて、二階建て客車の車内は例によって大騒ぎである。
 同じボックスに座ってきた女の子が、私たちに話しかけたのがきっかけで、私たちが日本人のグループとわかると、車両じゅうの生徒が興奮状態に陥ってしまった。
 日本語で「愛してます」は何ていうんだと聞かれたり、わけのわからないプーリアの俗語を教えてくれたり、一緒に写真を撮ったりして、ボルテージは高まる一方であった。
 オタクっぽい男の子は、「インターネットに写真をアップしてね。見るから」といって下車していったが、どうやって検索するのだろう。まあ、いいか。

 さて、こうして列車が遅れたために、わざわざ日本で教えてもらったバーリの食堂へは行けずじまい。駅ナカのバールで昼をすませた。

 バーリからのアップロ・ルカーネ鉄道に乗っているうちに雨は小降りになり、めでたく10分遅れ程度でマテーラ中央駅に到着した。
 目指すは、旧市街・サッシ(Sassi)内で2年前に開業したホテル・サンタンジェロ(Hotel Sant'Angelo)である。
 客室は穴蔵を改造したもので、それぞれが独立している。部屋はちょっと湿っぽかったが、それはエアコンで調節できた。四つ星のため、お値段は安くはないが、なかなかのホテルである。どこか秘めやかな雰囲気はカップルにお勧めかも。

マテーラの洞窟ホテル

 それにしても、マテーラのサッシは、いつ見ても見事というほかない。
 石灰岩質の山に横穴が掘られ、さらに時代が下ると、その上に家が積み上げられていったという。こんな風景は、ほかに2つとないだろう。
 また思うのは、ヨーロッパの町で教会が町の中心にそびえている様子のよさである。マテーラにしても、教会の尖塔がなかったとしたら、もう1つしまりのない姿であるに違いない。

 そして、サッシ内を歩いて不思議に感じるのは、その遠近感である。はるか遠くに見えていた場所に、意外に早くたどり着いてしまう。
 確かに、坂の上り下りは大変なのだが、水平の移動距離は見た目ほどないというのが、この町の特徴だ。
 これは、同行者3名も同じ感想を持っていたので、間違いないだろう。
 晴れたマテーラもよかったが、雨のマテーラもまたいいもんだねえ……と負け惜しみを言う私と妻であった。

 ホテルに着いたら、遅い夕食までは、ツアコン疲れをいやすひととき……と思っていたら、さにあらず。
 食前の腹ごなしという名目のもと、同行者の買い物にお供をしなくてはならないのである。
 マテーラで義母は靴を買い、妻は「思ったより寒いから」と言って高級な長袖のスウェットシャツ(和製英語でいうトレーナー)を買った。
 そのたびに、ちょっときついだの、ほかの色はないかだの、同じサイズで別のデザインはどんなのがあるかだの、私が通訳しなくてはならない。おかげで、イタリア語はかなり上達したように思える。

 そして、欲しいものを買い、ウマいものを食って、それぞれ眠りついた我々である。
 しかし、この日の妻の買い物の因果が、翌日になって報いを呼び、ツアコンの疲労度を著しく上昇させることになろうとは、この時点では、お釈迦様でも、南イタリアで人気のピオ神父(故人)でも知らなかったであろう。

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コメント

ikeさん、それはそれはご同情申し上げます。
私の今回の旅では、「スコント!」こそありませんでしたが、購入希望者の要求が高いために、なかなか難儀をいたしました。
ところで、クロトーネにも言って参りました。
はからずも、例のホテルに宿泊することに。
その件は、追ってアップします。

まっちなさん、どうも今回はホテルの電話回線に恵まれておらず、なかなか更新ができません。
……実は、毎晩飲んだくれて寝ているだけですが。

ツアコンって、本当に大変ですよね。

私は両親と妹を引き連れ、ヴェネチア観光をしたことがあります。
両親は一軒ずつ、くまなく店に入ります。そして入店すると、まず「ディスコーント」と言います。何語かはわかりませんが、「値段をまけろ」という意味とのことで、ちゃんと通じます。そして、色が違う、大きさが合わないと(このやりとりを片言しか話せない私が通訳)、さんざん品物を散らかしておいて、いきなりプイッと店を出て行ってしまいます。
残された私が、唖然としている店員さんにひたすら謝っていました。それを一軒ずつ、何度も繰り返しました。場所がヴェネチアだから過労死せずに済んだのだと思います。

南イタリアでのツアコン・・・、想像しただけで疲れてきました。

雨の中のツアコン、お疲れさまです。雨のマテーラ、排水はどうなんだろう?なんて思わず心配しちゃいました(^^ゞ
「南は車」(アトムズさん、いつもありがとうございます)と決めていますが、こういう交流があるなら列車の旅もいいですね。さて、因果の「果」とは何か?続きを楽しみにしています(*^^)v

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著書

  • 社会人に絶対必要な語彙力が身につく本[ペンネーム](だいわ文庫)
  • 『ようこそシベリア鉄道へ』(天夢人)
  • 『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)
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