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著書

  • 『ひたすら眺めていたシベリア鉄道』(私家版)
  • 『日本懐かし駅舎大全』(辰巳出版)
  • 『鉄道黄金時代 1970s──ディスカバージャパン・メモリーズ』(日経BP社)
  • 『国鉄風景の30年―写真で比べる昭和と今』(技報堂出版)
  • 『全国フシギ乗り物ツアー』(山海堂)

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2006-10-18

「ナポリを見てようやく死ねる」

 10月1日、ナポリ・メルジェッリーナの宿。妻、義母、妻の友人S嬢という女性3人を引き連れてのツアコン最後の朝である。

 昨夜の失敗を糧にして、きょうは朝のうちにタクシーで展望のいい場所をまわってもらうことに決めた。
 3人の乗る飛行機の時刻を考えると、宿を10時には出なくてはならない。実質1時間半で、はたして何が見られるか。

 呼んでもらったタクシーの運転手は、年のころは50前後といったところ。ナポリの元伊達男といった感じで、縦縞のおしゃれなシャツを着ていた。
「ポジッリポあたりで市内がよく見えるところ。それから卵城に寄って、空港に行って」
 そう言って、私たちはタクシーに乗り込んだ。

マレキアーロの港

 ポジッリポの丘からの展望は、義母やS嬢もかなり気に入ったようだった。最初は見えなかったヴェズービオ山も、だんだんと姿を現してきた。
「やっぱり、ナポリはこれを見なくちゃ、死ねないわ」
 ごみごみした中心部から離れて、こぎれいな建物が並んでいたのもプラス評価だったらしい。
 1週間かかって義母の好みがなんとかわかってきたような気がするが、もうツアコンの最終日である。

 みんなが写真を撮っている間、純粋ナポリっ子らしい運転手に、私は探りを入れる。これもツアコンの勤めである、たぶん。
「20年前に『マッケローニ(日本題マカロニ)』っていう映画があったよね。大好きな映画なんだけど、ラストシーンでこのあたりから撮った場面があったっけ」
「おう。マルチェッロ・マストロヤンニとジャック・レモンが出たやつだな」
「そうそう」

 こちらが喜んでいるのを見て、彼は次々に眺めのいい場所に案内してくれる。
 さらに丘を登り、湾の向こうに島影の見える場所に車を止めた。
「あそこに、鉄鋼工場の跡が見えるだろう。再開発の計画があって、5年もすればホテルやレジャー施設が建ち並んでいるはずだ。いま撮った写真は貴重な記録になるよ。
 それから、こっちの海側がマレキアーロ地区。ナポリの昔の姿が残っている場所だ」

再開発予定のガイオーリ(?)地区

 マレキアーロというと、古いカンツォーネ好きならば、タイトルを知らなくても一度は聴いたことがあるに違いない。
「へえ、マレキアーロって地名だったんだ」と、私がピンボケの合いの手を入れると、彼は「よし」とばかりに車に向かった。
「行ってみよう」

 こうして私たちは、彼のおかげで、ごみごみしたナポリとは別の姿を見ることができたのである。
「マレキアーロ」に歌われている「小窓(Finestrella)」のそばには、家の壁に大きく楽譜が描かれている。
 そして、狭くて急な坂道を降りると、小さな港があって、これまた小さな観光ボートが停泊していた。ここは、イタリア人向けの観光地なのだろう。
 それにしても、100年か200年前のナポリは、どこもこんな感じだったのだろうか。そんな姿を思い浮かべるだけでも、ここに来たかいがあったというものだ。

「運転手さん、その歌を歌ってちょ」
 義母が名古屋弁で頼むと、「車に戻ってからね」と、ちょっと照れながら言う彼。

 車に乗ったら、自分で歌うのではなく、カーステレオをかけてくれた。
 彼は、歌に出てくるナポリ弁を、いちいちイタリア標準語に直してくれる。それをまた、わかるところだけ適当に日本語にしてみんなに伝える私。
 雲一つない青空のもと、こうして車はナポリ空港まで快走したのである。
「ナポリを見て、ようやく死ねるわ。きのうまでのナポリだったら、死ねないもんね」と、義母のご機嫌も上々だった。

 それ以後、旅行中はもちろん、日本に帰って1週間がたった今になるまで、車内で聴いた3曲のカンツォーネのメロディーが、頭にこびりついて離れないのである。

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