『昭和二十年東京地図』
A5サイズで300ページあまり、グラビア印刷(たぶん)のずっしりと重みのある本である。
のちに、ちくま文庫の1冊として発売されたが、写真の迫力を感じるためにも、やはりオリジナル版のほうがいい。
タイトルを見ただけでは、戦後すぐの写真を集めた本のように思えるが、そうではない。写真自体は、この本が刊行された時点での東京の写真である。だが、どれも1980年代後半のものとは思えない。戦後の陰をひきずった写真なのだ。
そうした写真を背景にして、東京の歴史を彩る事件、事故、資料、エピソードが詳しく語られていく。春日局、徳川慶喜、日露戦争、永井荷風といった話題もあるが、やはり興味深いのは戦後の話題である。
進駐軍、貧民窟、闇市の抗争、バタヤ、私娼街、小平事件、吉展ちゃん事件……といった活字が次々に登場。1950年代なかばに生まれた私としては、記憶をつかさどる神経細胞の端にぴくりと触れられたような気がする。
それと同時に、よくも悪くも生々しいエネルギーに満ちた、かつての東京の姿がを目の前によみがえってきて、くらくらとめまいのようなものを感じるのであった。
この本を読んだら、ビルごと消毒されてしまったかのようないまの東京の町が、薄っぺらく思えてくること請け合いである。
この本を読んだ当時、私も東京の町の写真を撮りはじめていたが、とてもじゃないけどかなわないと思った。だって、こんなに勉強している人がいるんじゃね……。まあ、それでもくじけずに撮り続けたけど。
この本はおもに東京の旧市内を対象にしているが、周辺部(武蔵野、世田谷、千住、亀戸など)を対象にした続編も出版された。
(発行:筑摩書房、文:西井一夫、写真:平嶋彰彦、定価:2500円+税、初版発行:1986年8月15日、ISBN4-480-85330-8)
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