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2005-12-02

本格的な山岳都市・ロッカフォルテ・デル・グレーコ

 さて、28日は、この旅のメーンイベントといえるログーディ(Roghudi)行きである。
 ログーディの町が興味深い点は2つ。
 1つは、川の合流地点の崖上という特異な場所にあるという点。だが、不幸にも何十年前かの大水害によって、いまでは放棄されたと聞いている。
 もう1つの点は、この地域で古代ギリシャ語がいまでも日常会話で使われている点。大昔、ギリシャの植民市があったマーニャ・グレチャ(マグナ・グレアキア/大ギリシャ)の名残である。また、何百年か前、オスマントルコの支配から逃れてきたギリシャ人たちが、カラーブリア南東部の山中に住みついたともいう。

 

車窓のサン・ロレンツォの町

 

 ログーディに行くには、レッジョからメーリト経由のバスでロッカフォルテ・デル・グレーコ(Roccaforte del greco--地元では「ロッカフォルテ」で通じる)に行き、地図によれば、そこから徒歩で片道6.5キロ、高低差にして400メートル以上を下っていくことになる。
 一応車道を歩くのではあるが、今回の旅にナップザックを持ってきたのは、ひとえにこのためであった。

 

 バスは朝7時35分に出るのだが、この時刻は通学のためのバスがひっきりなしに通過するので、どれに乗ればいいのか見分けるのが大変である。
 そこで、近くでバス待ちをしているおじさんおばさんに確認すると、そばにいた80歳近くと思えるおばさんが、「私も途中まで一緒に行くから安心しなさい」と言ってくれた。

 

「どこから来たの、へえ日本からねえ。ログーディにも行くんでしょう。ところで、どこに泊まっているの。え、バールがやっている貸部屋? 駅前通りの……ああ、あの色っぽい若い女の人がやっているところね」
 こう言ってにやりと笑う。
「でも、あの人は旦那さんがいるのよ」
 私はよくわからないが、人生の達人であるおばさんは、勝手に妄想をふくらませていたのかもしれない。
 もっとも、あの女性にバールの奥に連れていかれたときは、本当にどんな部屋があるのか、ちょっと心配ではあった。

 

山道から見えたエトナ山

 

 バスは15分ほど遅れてやってきた。私が運転手の後ろに席をとると、なんとおばさんがわざわざ私の隣に座ってくる。
 同乗の数人の人たちは、運転手を含めてみな知り合いらしく、「この人は、日本から写真を撮りにきたのよ」とかなんとか紹介してくれる。
 しかも、私が丘上都市や小さな町が好きだといったら、車窓に見える町を次々に教えてくれる。

 

 1時間ほどして、おばあさんの家があるサン・ロレンツォというとんでもない山の上にある町に着くと、「この広場は素敵でしょ。降りて写真を撮っていきなさい」
 こういって、バスの発車を待たせてくれた。

 

 カラーブリアのおばあさんにしては標準イタリア語の発音がきれいで、私にもかなりよくわかった。もっとも、内輪で話している言葉はまるでわからなかったが……。
 しまいには、握手を求めて降りていったというのは、いくらイタリア人でも、おばあさんとしては珍しい。カラーブリアの片隅にあって、もしかすると若いころから聡明で進歩的な女性だったのかもしれない……なんて思った私であった。

 

ロッカフォルテの町

 

 運転手もまた、若くてきざっぽい格好だけど愛想のいい人で、シチリアのエトナ山が見える場所でバスを停めてくれた。山道の真ん中で……。
 こうして1時間40分かけて、標高1000メートル近い山頂に広がるロッカフォルテに到着した。終点まで乗り続けたのは私一人であった。
 ちなみに、ロッカフォルテ・デル・グレーコという名前は、「ギリシャの強固な砦」といった感じか。
 それにしても、この山の上の町は、丘上都市というよりも、もはや山岳都市である。これを見ただけでも、来たかいがあるというものだ。

 

 感動にひたっていると、町なかの急坂の途中にある小さな別れ道でバスが停まった。
「この道をずっと降りていけば、ログーディに行く。道はガタガタだけど舗装はされているよ。じゃ、帰りのバスは2時45分だからね」

 

 こうして、私はログーディへの道を踏み出したのであった。
 空は雲一つない快晴である。

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