山上の別世界・ジェラーチェ
2泊した貸部屋に別れを告げ、29日はジェラーチェ(Gerace)を目指した。
ジェラーチェは、イタリアでもかなり有名な観光地なので、行くべきかどうか悩んだが、ティリオーロを勧めてくれた昨年のカラーブリア鉄道の乗務員も、「ジェラーチェはいいぞ」と言っていたので、この意見に従うことにした。
それに、有名な観光地といっても、よく考えれば日本じゃまったく無名な場所である。
ジェラーチェに行くには、メーリトから列車で1時間のところにあるロークリ(Locri)で下車。そこから内陸に10キロほど行けばいい。
ここにバス路線があることは、2日前のメーリト行き列車代行バスの車内で聞き及んでいた。我ながら、実に用意周到である。まあ、タクシーでもそれほどの金額は心配ない距離ではある。
宿は、周辺の町めぐりも考えてロークリでの宿泊を予定していたが、ちょっと心配もあった。というのも、前の週のテレビニュースで、この町の「暴力反対デモ」を連日報道していたからだ。
シチリアのマフィア、ナポリのカモッラに相当するカラーブリアの犯罪集団が、このあたりで事件を起こしているらしい。「ン」で始まる名前だったが、いまは失念してしまった。
まあ、さすがに観光客には問題ないだろうという甘い考えのもと、さっそく駅近くの広々としたバールでコーヒーを注文。レジのおじさんに、いいホテルはないか尋ねた。
メーリトでは電話回線がなくて失敗をしたので、こんどは「ホテル」の前に「いい」という形容詞をつけるのを忘れなかった。
「うーん、ないね。3キロ南側に行けばあるけど」
「3キロ!?」
3キロ南というと、ギリシャ時代の遺跡「ロークリ・エピゼフィーリ」があるあたりか。いくらなんでも、公共交通機関利用者には不便である。
ロークリはかなりの人口がありそうな町だが、観光客はみんなジェラーチェに直行するのだろうか。
茫然として駅に戻ると、なんとジェラーチェという行き先を記したミニバスが停まっているではないか。聞くと、10分後に発車するという。この悪運は生かすしかない。
こうして、またもや「突然ジェラーチェ泊」ということになったのである。
あとで調べたところによると、このバスは1日数往復しかないことがわかった。これも、ジェラーチェに泊まれという神と仏の思し召しであろう。
ジェラーチェのある大きな丘は、海岸近くを行く列車やバスからも見える。確かに、このあたりには、車窓から丘上都市が次々に現れるのだが、そのなかでもジェラーチェは異彩を放っているのだ。
まず、丘が白いこと。凝灰岩のたぐいなのだろうか、ほかの丘上都市では、山が緑に覆われているのだが、ここだけは岩肌がそのまま見える。
しかも、白地に白っぽい家が立て込んでいるから、遠目には単なる岩山にしか見えないのも特徴だ。先日、バスの車内から見たときは、山頂にクレーンがかすかに見えたので、「あそこが例のジェラーチェ」かと、ようやくわかったしだいである。
近くから見るジェラーチェは軍艦のようにも要塞のようにも見えた。丘上都市に来るたびに考えるのだが、よくこんなとこに町をつくろうと思ったものだ。しかも、いまも何千人という人が住んでいて、教会も商店もレストランもホテルもある大きな町なのである。
ここには4つ星のホテルが2、3軒、あとはB&Bがあるようだ。
迷わず4つ星のホテルにしてしまった。なにしろ、電話回線がほしい。そして、ここ2日節約した分をぜいたくに使いたい、そしてこのあたりで体をゆっくり休めたいと思ったからだ。
結局、この日はジェラーチェの町めぐりで終わった。体を休めようと思った割には、ジェラーチェの全景を写そうと、かなり下まで歩いてしまったり、静まり返ったジェラーチェの路地という路地を歩きまわってしまった。
それにしても、海岸近くのごちゃごちゃした町とは別世界である。
時間はたっぷりあった。夏は観光客でごったがえしているそうだが、当日のホテルの客は私一人。町中でも、観光客はヨーロッパ人の若いカップルを見かけただけである。
すがすがしい秋晴れのもと、私は路地でネコとたわむれるのであった。
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「ン」ではじまるカラーブリアの「ヤクザ」集団は、「ンドゥランゲタ」でございました。
まったく、どこの国の言葉か? という感じです。
アクセントの位置(終わりから3つ目の音節にアクセントがある、いわゆる”ズドゥルッチョロ”でした)については、プーリアの某師匠からのご教授に感謝いたします。
投稿: 駄菓子 | 2005-12-14 14:03