正統派の丘上都市・ティリオーロ
カタンザーロの北東10キロほどの山に位置するティリオーロ(Tiriolo)は、イタリアのガイドブックでも扱いの小さな町である。
なぜ、そんな町に行こうと思ったかといえば、去年カタンザーロで私鉄カラーブリア鉄道に乗っていたときに、乗務員から勧められたからだ。
「なに、丘上都市が好きだって? じゃあ、この近くならティリオーロがいいよ」
客席にいた3人の乗務員が口を揃えていうので、ぜひ訪ねてみようと思ったわけである。
さて、昼12時すぎのカタンザーロの中心にある広場は、何百人という中高生で大変な騒ぎとなっていた。学校が終わり、近郊の町や村に向かう列車やバスが出発するまで、友だちとおしゃべりに時間をつぶすのだ。
そして、出発時間が近づくと、そんな生徒たちの半数以上がバスターミナルにやってくるのだから大変である。
カラーブリア鉄道の駅前にあるバスターミナル--というよりは単なるバス置き場といっていい空間に、何十台かのバスがぎっしりと駐車している。
それが12時から14時のあいだに次々と発車していく眺めは壮観である。そして、14時を過ぎると、うそのように静かになってターミナルが空っぽになってしまうのだ。
さて、私の乗ったバスも、私以外はほとんどが中学生か高校生であった。私が列に並んだら、「ブォンジョルノ」とあいさつをしてくれる殊勝なやつもいた。
バスに乗ると、最後部の席のあたりでは、歌を歌ったり叫んだりと、大騒ぎである。
このあたりの事情は、日本と大違いである。イタリアでは、子どものうちは、バスでも電車でもやりたい放題。よほどでない限り、それをとがめる大人はいない。
まあ、どちらがいいのかは、なんとも言えないところである。
カタンザーロの郊外でバスが高速道路から降りると、あたりは一気に田舎の山の風景となる。だんだんと車内に空席が目立ちはじめ、14時をまわったころ、車窓にティリオーロの威容が飛び込んできた。
確かに、地元の乗務員が勧めるわけである。それは、昨年訪れたモラーノ・カラブロの印象に近く、円錐上の山にびっしりと家が立て込んでいる--あえて言えば「正統派」の丘上都市であった。
「帰りのバスは何時?」
終点に着くと、私は運転手に尋ねた。
「3時だよ」
「えっ? 3時!?」
夕方にやってくる最終バスの折り返しがあるものとばかり思っていたから、これにはあせった。
となると、与えられた時間は45分。その時間内で、この町の全景を撮り、頂上まで登って降りて来なくてはならない--「ならない」わけではないのだが、どうもそうしないと気が済まない。
それともう1つ、イタリアでも日本でも、町訪問における私の決め事がある。それは訪れた町に、少しでも金を落とすこと。それができない場合は、トイレに入ってくることである。まあ、何か形を残しておこうというわけだ。
というわけで、まずバス停前のバールに突入。
昼時とあって、店内も店外もおじさんたちで賑わっていた。いきなり入ってきた東洋人に注目が集まるなか、コーヒー1つを頼んでから店の人に尋ねた。
「カタンザーロ行きのバスは何時に出るの?」
私はものごとを慎重に進めるタイプなのである(ウソ)。15時以降にもどこかに行くバスがないか知りたかった。
その辺にいた、人のよさそうな2、3人が「確か3時だよな」と言い合う。
「それが最後?」
「そう、最後」
これではしかたがない。礼を言って早々にコーヒーを飲んで店を出た。
まずは、500メートルほど歩いて、東側から遠景を撮影。道を歩くおばあさんが、「写真かい。きれいな町でしょ」と言って通りすぎていく。
あとは、頂上まで汗だくになって登り、城砦跡を踏み分けて、丘上都市特有の急坂と階段を、ひざをがくがくさせながら必死に降りてきた。
そして、こんどは西側から遠景を撮影しなければならない--もちろん「ならない」わけではないが。
さっきのバールの前を、必死の形相をして早足で通過していく姿を見て、みんなはなんと思っただろうか。
あとから西側に向かったのは、帰りのバスが通る道だからである。
案の定、始発の場所に3時までにたどり着くことはできなかったが、やってきたバスに向かって手を挙げて止め、乗り込むことができた。これが、田舎のバスのいいところである。
実は、この町は、トップの写真でもわかるように、東側にもう1つの山がある。ガイドブックによれば、ここの頂上には20分で登ることができ、眺めがいいという。だが、それも時間がなくて、泣く泣くあきらめなくてはならなかった。残念。
とはいえ、この日も天気に恵まれたことを神と仏に感謝しなければならない。イタリア中部や北部は寒波と大雪で大変だというが、私はこうしてまた平和な1日を過ごすことができたのである。
さて、翌日はカラーブリア州の北部にあるカストロヴィッラリを目指すか、それとも南部のメーリト・ポルト・サルヴォを目指すか、宿に戻ったらテレビの天気予報との相談が待っている。
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