31日は盛岡付近で一仕事をしてから、仙台に向かった。当日中に東京に戻る算段である。
だが、とうとう悪運がつきたか、朝から雨。
しかも、仙台到着早々に大失敗をした。駅のコインロッカーに荷物を預けたのだが、鍵をかけたとたん、折り畳み傘を出し忘れたのに気づいた。
しかし、ここでまた300円を払って傘を出すのは悔しい。雨なんかそのうち止むだろうと、勝手な思い込みをして出発することにした。
目的地は仙台市内のとある寺院。まあ、市内ならば電車かバスで行けるか、悪くてもタクシーで2000円も出せば大丈夫かと思っていた私である。

だが、本屋で地図を見てビックリ。目的地である青葉区は、山の中まで広がっているではないか。作並温泉まで青葉区とは驚いた。
そして、目的の寺院は仙山線で30分、しかも駅から約3キロも離れている。まあ、それでも駅近くから出ているバスに期待することにした。
ところがである。着いてまたビックリ、そのバスは2時間おきなのだ。次のバスは50分待たないと来ない。しかもタクシーの姿もない(実は次の駅までいけばタクシーがあった)。
--早足ならば30分で着く。それならば、5時前に現地に到着できるぞ。
私は意を決して、雨の中を、頭にハンカチを乗せて歩きだしたのである。
しかし、雨足はいっこうに衰えない。道はだんだんと細くなり、周囲は農地や空き地ばかりとなってきた。もちろん、すれ違う人もない。
--骨が1、2本折れていてもいいから、ビニール傘が落ちていないものか……。
だが、そんな虫のいい話があるわけがない。
雨の中を、ひたすら歩いていく私であった。

そして、もう30分近くも歩いたころだろうか。坂道の途中で、道端に赤い物体を見つけた。
近寄ってよく見ると、なんとほぼ新品の折り畳み傘ではないか。赤と黒のチェックの女物の傘が、きちんと折り畳んだ状態で落ちていたのである。
--おお、これぞ天の助けか地の救い!
感激しながら、ふと私は上を見た。
なんと、そこは墓地だった。
こりゃあ気持ち悪い……などとはけっして思わない私である。これも御仏の思し召しかと思い、ありがたく使わせていただくことにした。
もう、目的地はすぐ近くだったが、その傘のおかげで最後の数百メートルは気分よく歩くことができたのである。
それにしても不思議なことがあるものだ。
これというのも、私の普段の行いがよいからに違いない。
せっかくだから、傘はそのまま東京まで持って返ってきた。
だって、あんな田舎道では、置いたままにしても持ち主に戻るかどうかわからないしね。
こうして、仙台市の奥で拾った赤い折り畳み傘は、いまでもナップザックの中にしまってある。
それにしても、あんな山の中まで仙台市青葉区とは……。
そういえば、仙台市と山形市は、全国で唯一、県庁所在地の市同士が接しているということを聞いたっけ。
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