ジローラモによろしく
イタリア南部方面行きの長距離バスが発着するのは、ローマ・ティブルティーナ駅そばのバスターミナルである。
ローマの国鉄の駅といえば、テルミニ駅が有名だ。あとは観光客が利用するとすれば、せいぜいローマ・オスティエンセ駅かローマ・トラステーベレ駅。ティブルティーナ駅の利用は私も初めてで、しかも出発は夜の11時半というので、ちょっぴり不安であった。
アッシージからの列車が到着したのは8時過ぎ。市バスの運転手に聞いて、なんとか長距離バスターミナルを探し当てて切符を購入したが、荷物預かり所もバールもない。
しかたなく、2人で大きな荷物を持ってうろうろする。ほかには、東洋人の観光客どころか、アメリカ人もドイツ人もいそうにない。それでも、腹の減りようには抗えず、懸命な探索の上にようやく見つけたのが、駅の斜向かいにある「ピッツァ・ナポリ」という看板を出した小さな軽食屋であった。
いわゆるターボラ・カルダという、出来合いのパスタや前菜を食べさせる店なので、味は期待していなかったが、意外とうまい。ワインが進むにつれて、50歳前後の店主との会話も弾んできた。
「どうだい、うまいだろ。オレが生まれたのは、ナポリの郊外にあるパコーリの近くのモンテ・プローチダというところなんだ。いやいや、プローチダ島じゃなくて、山のほう。そこからは、ナポリ湾が一望できるのさ。こんどナポリに行ったら、ぜひ寄ってよ」
「何? 日本で一番有名なイタリア人はジローラモっていうナポレターノだって? うん、その名前をつけるのならば、○○か××か△△の町の出身だなあ」
10時を過ぎると、彼とその奥さんらしい2人が、客席に入って食事をするのだが、常連らしい客がひっきりなしにやってくる。図々しくも、そんな人たちと写真をとって、盛り上がる私たちであった。
「閉店は12時なんだ。それ以上やっていても、変なやつばっかりやってくるしね。警察の厄介になるのもいやだから」
お互いにワインが入って他愛ない話を重ねているうちに、11時になった。私たちは勘定を払って店を出た。
「オレはずっとここで店をやっているから、日本に帰ったらハガキをくれよな。これが名刺だ。そうそう、店の外からも写真を撮ってくれよ。ジローラモにもよろしくな。ローマに来たらこの店に寄ってくれって伝えてよ、ハッハッハ……」
「『よろしく』って言われてもねえ……」などと私と連れ合いは話しながら、狭苦しい夜行バスに乗り込んだのであった。
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